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レイン・オブ・アサシン(スー・チャオピン、ジョン・ウー)

 いやー、とても面白かった。武侠映画のお約束などをよく踏まえて作られた作品でした。物語:手に入れた者は武術の奥義を極めることができるといわれる「達磨大師のミイラ」が暗殺団「黒石」に奪われる。だがその仕事の誤算は組織の一番の使い手、「細雨」の逃亡だった。僧に生き方を問われた彼女は平穏な生活を望み、身をやつして市井の市民として生きることを選ぶ。そしてそんな彼女の生活にも、貧しいが気立てのいい青年が現れたことで変化が訪れる。しかしそれは「黒石」が彼女を見出すまでの束の間の休息に過ぎなかった…
 脚本なしで作られたような香港メイドのものもそれはそれで勢いがあって好きだけど、一見同じような路線のようでいて、緻密な伏線やよく練られた構成など、ストーリーテリングに繊細さが感じられるのは監督が台湾の人だからでしょうか。以下感想メモ。
・結末から考えると屈折した『キル・ビル』みたいな話ですね。もともと屈折していた『キル・ビル』がややこしい純愛に着地したところからさらに捻っているので、一周して割と俗っぽいオチになっているのだけど、そこが良かった。(悪の頭領側視点のストーリーとして。)
・という訳で血に飢えたロリータ・アサシンもちゃんと登場します。しかし演じているバービー・スーをネットで調べたら既に御年35歳!「台湾の永作さん」の名を進呈したい。というか『コネクテッド』※1のヒロインでしたね。印象が全然違ったから分からなかった…
・如何にも冷酷なアサシンのルックスであるケリー・リンが整形の秘儀であえてミシェル・ヨーになる、という冒頭の展開がよく分かっているなと唸らされます。華でいえばケリー・リンなんだけど、それではこのストーリーにはならないんですよね。
・最初にも書きましたが、とにかく伏線が丁寧。思うに伏線には2種類あって、クライマックスの思わぬどんでん返しの手がかりを示している性格のものと、ツイストの行方を実は観客も共有しているのだけど、いつその種明かしをしてくれるのかという期待に対して、こうあってほしいというタイミングで的確に情報を提供するもの。そしてこの映画では完全に後者でした。
・いってみれば多段式ロケット的な構成で。前半はヒロインの「凄腕暗殺者」という出自がいつ馬脚を現すのか?(逆の意味で)という言ってみれば『ロング・キス・グッドナイト』的な興味で引っ張って行って、中盤は…いやネタとしては割とあからさまなんですが、書いてしまうのはさすがに躊躇されるので。しかし分かっていても「そのシーン」には興奮させられました※2。画的には完全に追い詰められているのに、敵を目前にして悠々と刀を研ぎ始めるとかめちゃめちゃ恰好良い。
・暗殺団の四天王のひとりが言う「俺、この仕事が終わったらお前と子供で麺屋を始めるんだ・・・」それって完全に死亡フラグですやんか・・・
・その他にも本筋とは全く関係ないところで説話で有名な「仙人綱」を暗殺者のエピソードとして挿入したり、話法の緩急の付け方が巧い。そのおかげで(割いた時間は短いのに)キャラクターに奥行きが生まれています。
・暗殺団の頭領が特徴的な声でしゃべる意味がきちんと回収されたり、暗殺団の番頭役が愛鳥を指して「こいつがお前より長生きするよ」という仲間内での冗談が、自身の死に際しても…といったディテール描写の豊かさも素晴らしかった。
・大河の中心に停泊する船で、少女を助手にアンダーグラウンドな手術をする名医という「ブラック・ジャック」の引用や、ひとたび召集の合図が掛かれば、個人的な生活は無視して暗殺に従事しなければならない掟という「ボーン・シリーズ」的な組織など、先行する名作をよく研究している跡が伺えます。しかし設定としてよく咀嚼されているので、継ぎはぎという印象は全くありませんでした。
・『レイン・オブ・アサシンズ』の「レイン」はみんな大好き『サラマンダー』こと『Reign of Fire』の方のレインなので「暗殺団に君臨する者」という意味なんだけど、中国語題は『剣雨』なので積極的に誤読させようというか、ダブルミーニング的な意味合いなんでしょうね。雨のような太刀筋とか、暗殺者の涙とか。
☆☆☆☆1/2
※1 本当に傑作なので、リメイク元の『セルラー』観てるしなあ…とか言わずに観ていただきたい。必然性のあるリメイクのお手本だと思います。
※2 ただ難点として、ネタを割った後に改めて絵解きをするんだけど、それは分かっていたからもうちょっと観客を信用してほしいと思ったことでした。もったいない。
※ そういえば武闘派のお坊さんがカルマについてヒロインに諭すから、てっきりアンディ・ラウが演じてると思ってた(マジで)。