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ラスト・ターゲット(アントン・コービン)

 映画の印象というものは観たときのコンディションに大きく左右される、ということはよく言われるところですが、今回はそれが身に染みたというか。あまり主人公に感情移入できなければ、「70年代クライムサスペンス風の小品」※1にすぎない映画だと思われますが、個人的な現状に引き寄せて観たので特に高評価になりました。ちょっとネタバレかもしれません。
 人生とはつまるところ、死ぬまで大小様々な「選択」の連続で出来ていて、しかも自分自身が社会という大きなシステムの中でどういう役割を担っているのか俯瞰することは決してできない、ということの寓話であるように思われました。すべてを見通しているかのような口ぶりの神父、どうやらその息子らしい裏稼業にも通じている自動車修理工など、思わせぶりなエピソードが挟み込まれるにもかかわらず、それらは予兆に留まって決して伏線として回収されることがありません。その徹底ぶりはまるで「人は自らの関わった事柄の流れ着く先について知りうることは殆どない」と宣言しているかのようでもあります。
 原題は「The American」※2ですが、このタイトルがどこへ行っても異邦人たる主人公の寄る辺なさを暗示していて、であるから、結末において自らの帰るべき場所をようやく見出した主人公の姿には『ブラック・スワン』のニナの姿を重ね合わせずにいられませんでした。
☆☆☆1/2
※1女ガンマンとの絡みのシーンは、不穏な背景音も相まって伊不条理劇的なトーンを醸し出していて良かったですね。
※2そのままカタカナ邦題にしてもよかったのに。