ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(ブラッド・バード)

 『Mr.インクレディブル』の時にもかなり匂わせていたけれど、完全に007を志向して撮られている感じだったですね(とくにロジャー・ムーア時代の)。いやあ面白かったです。という感想が全ての作品ですが、いくつか気になった点をメモ。
 ・エージェント・ハナウェイが背面落下しながら銃で敵を撃ち取るところに始まって、ひとまずの決着がつく一連のシークエンスの演出の呼吸はまさしくアヴァン・タイトルの気分。そこからの導火線タイトルは『スパイ大作戦』というより「俺、本当は007撮りたかってん・・・」という監督の気持ちを代弁するかのごとく。
 ・ロシアの刑務所脱出シーンで、手すりをふわりと乗り越えるトム・クルーズの所作がとても美しい。よ!千両役者!って言いたくなった。そういうところが、やっぱり「ザ・スター」なんだな。※1
 ・謎の女殺し屋とだけ紹介されていたサビーヌ・モローは、実際のところ紹介するほどのプロフィールすら与えられていない形式的な役だったのが残念。そういうところもボンド・ガール(メインじゃなくて敵組織の殺し屋とかの方)っぽいんだけど。※2ところで演じるレア・セイドゥは「フランス娘のパブリック・イメージ」がそのまま衣を着たかのような佇まいで、『ロビン・フッド』のイザベル王妃とか『イングロリアス・バスターズ』でも印象深かったですが、実はゴーモンの一族なんですね。お嬢様だったのか!
 ・手錠を外すのにゼムクリップを使うのはお約束だけど、一瞬それに手を伸ばすカットとその後看護師さんがカルテを持って行こうとすると書類がばら撒かれる、という画だけで何が起こったか分からせる省略の妙とか、壊れた「壁のぼりグローブ」を投げ捨てたら、後で(おそらく風で舞い戻って)壁面に張り付いていたとか、それそれ!といいたくなるような繊細なディテール演出にピクサーアニメに通じるものを感じました。
 ・何度も予告編で観てますが、ブルジュ・ハリファのシーンはやっぱりドキドキした。
 ・お約束の「落下してピーン」のシーンに捻りがあって面白かった。これは予告編でやらなくて正解ですね。
 ・とある経緯を説明するのに、「クロアチアに潜入しているときにセルビア工作員を6人殺して」みたいな話があるのだけど、そんなざっくり「ならしょうがない」的な説明でセルビアの人が怒ったりしないかな?と他人事ながら心配になりました。ナチス並みに絶対的な悪者として扱っても大丈夫な話ではないと思うのだけど。
 ・セカンド・ユニット・ディレクター(スタントシーン班)はこの映画もダン・ブラッドリー。ボーンから007から、格闘がらみの大作アクションは全部この人がやってる感があるなあ。
 ・シリーズごとのカラーが見事に違うこの作品ですが、物語上の関連性からも第3作に近いかな。エスピオナージュの陰惨さが色濃い(主人公チームなのに口を割ったらそのまま敵を始末してしまうところとか)1のトーンでまた撮ってほしい気もするけれど…
 1,2作のヴィング・レイムスが出てきたり、ちゃんとシリーズ愛のある(「ダイ・ハード3」などに比べて)作品でもあって、しかも個別のシーンはとてもワクワクさせられたのですが、残念ながらトータルとしてはなかなか良かった映画どまりという印象でした。これ以上なにが必要なんだ?と問われたら、それに対する答えは用意できないほど万遍なくよくできてるとは思うのだけど・・・それが映画の難しいところなんでしょうね。
☆☆☆1/2
※1 一生懸命なのになんだか前に進んでない感じの走り方も好きなんですが。
※2 報酬をダイヤで要求するところとか、それっぽい。