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オスカー・ワオの短く凄まじい人生(ジュノ・ディアス)

 所謂ディストピア萌えの向きには力強くお薦めできる小説ではあります。というように、奥歯に物の挟まったような言い方をしている時点で察していただけるかと思いますが、残念ながら物語に完全には乗ることができなかったですね…。抗えぬ運命の奔流に押し流される人々の物語。
・ザ・マジックリアリズムな「フク」という名のドミニカ固有の土地の呪縛が縦糸なのですが、それだけではアピールしないと判断したのか、(喧伝されているように)オタクなディテールがてんこ盛り。でも実質的に物語には絡んでこないので手遊びどまりな印象で。どうしても「そういう方法」でなければ語りえない、という切実さが感じられませんでした。注釈が的確かどうか逆チェックしながら読んだようなインサイダーのみなさんはどのように感じられたのだろうか?
・あと個人的に印象が悪かったのは語り手である「おれ」の造型のせいかも。実はタイトルから連想されるようなオスカーの一人称ではなくて(どころか主人公は家族全部なんだけど)、ふとした縁で彼とルームメイトになった(現在小説家である)、姉ロラの元彼によって語られるんですね。(体験したことどころか、見られたはずのないことまで、まるで見てきたように語っちゃうのがまたマジックリアリズムなんだけど。)
 さて、この青年はだらしない男女関係に耽溺する無頼派気取りなのですが、本当に大切なロラとの関係をみすみす駄目にしてしまったり、分かっていながら衝動的に間違った方向へ突き進んでしまう、などの描写があまりに類型的で、そういうこともあるかもしれないという実感を伴って迫ってこない。(こういうキャラクターで説得力が感じられたのは、トム・ジョーンズの『拳闘士の休息』の登場人物たちくらいだな。)
 「フク」がその呪われた力を行使するのは、もっぱら男女関係のもつれをチャンネルにして、ということを考えれば彼自身とも決して無縁ではないはずなんだけど、そこに思い至るでもないし・・・
・とはいえ、トルヒーヨという独裁者国家に翻弄された一族の堂々たる大河ドラマで、読み応えはありました。だからこそ小手先のオタクワードに頼らないでほしかったのですが。しかしながらこの作品をこの作品たらしめているのはそういう部分でもあり。クラシックな語り口ではマーケ的に難しかったのかなあ・・・
☆☆☆1/2