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乱暴と待機(富永昌敬)

 大きいおなかを抱え、郊外の鄙びた市営住宅に越してきた番上夫婦。しかし偶然にもその隣には妻あずさとは浅からぬ因縁のある奈々瀬が住んでいた。しかもそこには赤の他人のはずの旧知の英則までもが同居しており、奈々瀬は彼をお兄ちゃんと呼ぶのだった・・・
 ディスカスなので、最初どうして借りたのか覚えてなかったのだけど、『パンドラの匣』が良かったから、ということで監督目当てであったことに後から気付きました。かなり強烈な作品だったけど、好きです。以下感想メモ。
・導入は典型的な「迷惑な隣人もの」コメディの体。となれば、「空気を読まない闖入者によって粉々に砕かれる、一見穏やかに取り繕われた世間体の仮面。しかしそのおかげで過去のわだかまりは浄化され、本音の人間関係が再構築されるのだった。めでたしめでたし」という展開が定石ですが、実は闖入者は番上夫婦の方だった、というように主客がシフトしていくのが一ひねりあって面白かった。※
・とにかく役者陣が最高。あずさを演じる小池栄子の磐石ぶりよ!正直小池さん自身は好みじゃなかったのだけれど、ここ最近のスキルアップと堂々たる演技には惚れざるを得ない。
・番上を演じるのは山田孝之ですが、近年(しかるべき作品に出ているときは)本当に素晴らしいですね。この作品でみせる「だらしなさ」も素かと思うほどナチュラルで。役を離れたときのモッサリした感じもその落差がむしろ好ましい。昔ながらのスタアって感じがします。『ちゅらさん』の頃はこんな感じになるとは予想もしなかったけれど。
・他のキャストは割りとオーソドックスな演技なんだけど、美波(奈々瀬役)の演出だけなぜか所謂「演劇演技」で収まりの悪さが気持ち悪いなあ・・・と思っていたのですが、話が進むにつれ普通の演技に。あれはそういう演出プランだったのかな?(「過剰に取り繕ってる感じが気持ち悪い女の子」という役ではあるのだけど。)ところで美波にはジャンル映画的なイメージしかなかったけど、いつの間にか野田秀樹蜷川幸雄に鍛われて、上手い人になっていたのですね。最後の見せ場では俺泣いたよ・・・
・という訳で、英則役は(いい意味で何を演じても浅野忠信な)浅野忠信で良かったと思います。なまじ憑依型の演技巧者だったりしたら奇矯なキャラが過剰で、作品の器に対してトゥーマッチだった気がする。
・『パンドラの匣』(菊地成孔)に続いて、サントラの限界に挑戦するようなかなりチャレンジングな音楽になっていて、そのスタイルは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(ジョニー・グリーンウッド)を思わせるような?まあ、あそこまでモダンではないけれど、一見作品に合ってないようにみえて、実は登場人物たちの孕む不穏な人間関係を反映しているのだと考えるとだんだんしっくりくるという面白さ。それで今回は誰が音楽?と確認すると大谷能生。菊地→大谷ラインだった訳ですね。
・タイトルがジェーン・オースティン風なのは何故かと思ったのですが、強いて言えば「閉じた世界での男女のややこしい関係とその顛末」という意味で通じるところがあるのかな。ボタンの掛け違いと、それを是正することができないディスコミュニケーション。誰もが誰かの承認を求めて四竦みに。こういう人間関係ってあるような気がする、と思わされた時点でこの映画の勝ちだなと。
☆☆☆☆
※エンドロールのビリングトップが英則、奈々瀬というのもそれを裏打ちしている気がします。