ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う(石井隆)

 演技というのはつまるところ「考えるな感じろ」ということだと思うのですが(数多あるメソッドも結局そこに至る方法論じゃないかしらん)。佐藤寛子という人はグラビア時代から「生真面目な委員長キャラとのギャップ」がチャームポイントで、それはある種の不器用な生き方と表裏を成していたように記憶しています。(ちょっと脱線しますが、「グラビア写真」であるにも関わらず、見ただけでそういった感じが洩れ伝わってくるというところが、写真というメディアの面白さなんだと思います。)そんな彼女が石井作品に出演する、という話を知った時は「ああ、きっと「考えるな感じろ」とは真逆のアプローチで理詰めで考えに考え抜いて自分を追い込んでしまうんだろうなあ」と思ったことでした。・・・それって超期待じゃないですか!
 というのはもちろん半分冗談ですが、そういう彼女のバックグラウンドも含めて作品に取り込んでやろうというオファーだったのだろうと想像しました。女優に本格的に取り組むことを世間に(そして自分にも)宣言する、所謂「体当たり」を当てこんで。率直にいって、この作品の最大のセールスポイントは佐藤寛子のフルヌードだった訳ですが、初見のシーンこそオオッ?!となったものの、その後余りにも脱ぎ倒すため、演技の拙さとも相まってむしろ痛々しさが勝ってきます。「佐藤さん(何となく「佐藤さん」って言いたくなるキャラと顔立ちなんですよね)、ごめん、頑張ってるのはもうよく分かったから、勘弁してください・・・」と画面に向かって言いたくなるほど。
 という訳で製作者側の作戦勝ちですね。「れん」というヒロインは(真面目で不器用そうなイメージの)佐藤寛子の身体を通して初めて説得力を持って成立するキャラクターであったということが見終わってよく納得されます。境遇に翻弄され、どんなに汚されても、残る一抹のピュアネス(であって欲しいという希望)※1。
 ただ残念だったのは、彼女以外の見所が乏しい、というかパンチに欠ける点。れんが主人公に名前を偽って自分自身を捜索させ、彼女の半生を追体験させるという展開があるのですが、ハードボイルドの定石としてしっかり描写を重ねれば、もっと盛り上げることができた部分だと思います。この箇所に関わらず、ヒロインの肉体の圧倒的な存在感と比較すると、些か各エピソードの演出が淡白に過ぎるきらいがあったような気がしました。
 ともあれ、佐藤さんには夏川結衣くらい女優として活躍してほしいものです。
☆☆☆1/2
※1.驚くほど見事に対照的なのは『冷たい熱帯魚』(まだ見てないけども)の神楽坂恵。作品のテーマといい、グラビアでの活動といい・・・
※2.英語タイトルはSalvation、ってことは監督にとっての「ターミネーター4」(新しいサーガ序章)だったのか?(無理がありました。申し訳ない)
※3.ディレクターズカットでの鑑賞だったのですが、劇場版は主人公とヒロインの直接的ラブシーンはなかったそうで。父性愛としかる後のやるせなさを考えれば、劇場版が正解だったような。