トゥルー・グリット(コーエン兄弟)

 登場人物たちがここぞという時に見せる信念という意味で、真の「勇気」というよりもなんだか「気骨」という言葉がしっくりくる映画でした。酔いどれジェフ・ブリッジスも、口だけ番長のマット・デイモンも、出番は短いながら印象に残るバリー・ペッパーの頭領ぶりも、みな良かったんだけど、やっぱり主人公マティを演じるヘイリー・スタインフェルドの気風のよさに一番魅力を感じました。大人を相手にして一歩も退かないひたむきさと賢さを実直に体現。それでいて子役によくある小賢しい感じがしなかったのも好印象でした。助演といわず主演女優賞でよかったのでは?
 作品としては、近過去でありながら全く違った倫理で成り立っているという「異世界観」がくっきり立ち上がっているところにドキドキさせられました。(冒頭の絞首刑のシーンでそのことを端的に描いて見せます。)善悪がともすれば曖昧で、敵味方が容易に入れ替わり、「今日はあんたにとって運がない日だったな」くらいの按配で生き死にが決まる時代。身体一つで運命を切り開いていかなければならない世界で、最後に頼みになるのはやはり己の信念のみ。14歳という幼さながら、マティの中にtrue gritを見出せばこそコグバーンもそれに応えたのでしょう。
 存外話が通じる男である悪党一味のボス、ネッドの造型や、(もっと酷い展開になってもおかしくないのに)マティを巡るやりとりがのんびりしてたり、その一方でふとした切っ掛けで死体の山が築かれる暴力描写などの要素は、「乾いたユーモア、乾いたバイオレンス」と評されるコーエン兄弟の資質がピッタリはまっていたように思います。
 ところで、こちらの方→「にわか映画ファンの駄目な日常」の文章に詳しいのですが、エンドロールにも流れる賛美歌「Leaning on the everlasting arms」は作品のテーマを裏打ちする重要な要素だったんですね。
☆☆☆1/2
※名手ロジャー・ディーキンスによる夜のシーンの美しさよ。『ヒックとドラゴン』のアドバイザーは伊達じゃないぜ。
※2クライマックスの星空の下、馬で疾走するシーン。風切音が熱にうなされたときの聴覚過敏な感じを再現していて印象に残る場面でした。