剣鬼(三隅研次)

 城の侍女が犬と交わって出来た「犬っ子」として、周囲から疎まれて生きてきた斑平。育ての親を亡くし、いよいよ独り立ちしなければならなくなったちょうどその頃、花を美しく育てるという才能を見込まれて、城内の花造り役として召抱えられる。さらにはそれをきっかけに、尋常ならざる俊足を買われ馬乗下役に取り立てられるのだった。ところが城内は狂気の度合いを増す藩主を巡って、あくまで現体制維持の保守派と代わりを立てるべしと主張する改革派の間で確執を強めていた。そんなある夜、保守派の切れ者として知られる神部が斑平のもとを訪れる。神部は彼に「藩内に潜む隠密庭番を切れ」と命じるのだが・・・
 三隅「剣3部作」終章。『斬る』は大変面白かったのですが、この作品も相当。「馬より速く走る主人公」「達人の居合いを見ただけで完コピ」「素人をアサシンに仕立て上げる」と文字にすると相当無茶な設定ですが、しかし見ている間は気にならない・・・というと若干嘘になるけれど、グイグイ惹き込まれる演出の腕力で見せられてしまいます。
 不幸な生い立ちの主人公が心ならずも暗殺者として仕事を重ねる悲劇。一つひとつ退路を断つ残酷なまでに周到な展開は、脚本の巧みさ故。星川清司雷蔵がわざわざ指名するほどのお気に入りだったというのも得心のいく話です。
 さて面白いのは、初めこそいわゆる「ウェット・ワーク」に難色を示していた主人公が、己の技術と才能に目覚めて(本意ではないけれど)力を発揮する喜びに抗えなくなるという展開。幼い頃から蔑まれ、居場所が見出せないまま大人になってしまった男がようやく見つけた「居るべき場所」。(この辺りは最近読んだ『フランキー・マシーンの冬』の主人公や『犬の力』のカランに通じるものがありましたね。)師匠である流浪の達人の正体や、切る度に鞘に収める居合いの特異な殺陣といったディテールも燃えます。
 最初の頃の標的は政情を探りにきた公儀隠密なんだけど、数を重ねるうち、ついには自分に暖かく接してくれた改革派の仲間も刃にかけることになる、というニヒリスティックなプロットはむむむ、僕の好きなエスピオナージュの定番ですね。最近こういうジャンルの作品を観たり読んだりするうちに、「エスピオナージュの本質は内部抗争と見つけたり」と思ったのですがいかがでしょうか?
 ところでヒロインと主人公が幻視する「花一杯の川辺の風景」。いつかこんな素敵な場所で穏やかに暮らせたら・・・って夢想するのだけど、予算不足のせいか無茶苦茶ドラッギーな原色で。ええぇ・・・こんな夢には共感できないよ。(まあクライマックスはその中ですごく格好良い大バトルが展開するんだけど。)
☆☆☆☆

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