狼は天使の匂い(ルネ・クレマン)

 原作はタイトでソリッドな会話劇といったノワールで、個人的にはミステリのオールタイムベスト10級に好きな作品なのだけど、これは導入のシチュエーションだけ借りて、あとは殆ど映画オリジナルの作品ですね。同じデヴィッド・グーディス原作のトリュフォー作品『ピアニストを撃て』も相当「攻めた」映像化だったけど、こちらも相当作家性が強い映画になっておりました。
 最初から名作の殿堂入りなんかを目指してなくて、あらかじめカルト作品となるべく定められたような、色々と構成要素が奇妙にアンバランスな映画。作戦決行までの引き伸ばされたモラトリアムの時間にやけに尺を割いているのだけど、なんだかこれデジャヴな感じ・・・と思ってネットの感想を見ていたら、ジョニー・トーとの関連性(『ザ・ミッション』『エグザイル』での引用)を挙げている方がいて「なるほど!」と膝を打ちました。つまるところ大の男が少年に還って命がけのゲームに興じる、という大人の御伽噺ですね。御伽噺としての物語ということでは、劇中登場する「アリス」のモチーフやルイス・キャロルの引用は監督からの補助線ということでしょうか。
☆☆☆1/2