フォロー・ミー(キャロル・リード)

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 会計士のチャールズは、自らの属する虚飾に塗れた「エスタブリッシュメントの世界」に嫌気が差し、独身貴族を嘯く日々だった。そんな彼はある日、小さなレストランで可憐なアメリカの女の子ベリンダに巡りあう。今までの知人とは対照的で自由な彼女に惹かれ、交際期間もそこそこに結婚する二人。しかし程なくして、ベリンダは心を閉ざしがちになってしまう。チャールズは浮気の心配を募らせるあまり、彼女の身辺調査を探偵事務所に頼むのだったが・・・
 『氷の接吻』みたいな「窃視者もの」が大好きという個人的な嗜好を割り引いても、素晴らしい作品でした。(そういえば原題は「氷の接吻」が「EYE OF THE BEHOLDER」で、「フォロー・ミー」が「The Public Eye」ということで何となく似てますね。やっぱりEYEは探偵を掛けてるのかな。プライベート・アイが私立探偵だから。)
 最初は無言でついてくる探偵クリストフォルーに訝しい思いが拭えなかったベリンダでしたが、人畜無害な様子に警戒心を解いて、それどころか心を許せる唯一の人間とさえ感じるようになります。言葉を交わさないからこそ気持ちが通じるという逆説。しかしそのような特殊な関係が永遠に続けられる訳もなく、彼の素性が明かされる日がやってきます。果たして彼女はどちらを選ぶのか?それとも誰も選ばず再び自由になることを選択するのか?
 まさか泣くとは予期してなかったのだけど、泣けました・・・個人的にグッときたポイントは、結末近く、クリストフォルーが心情を吐露する場面。何事にも心を煩わされることなく、職を何十となく変え、自由気ままな人生であるように見えた彼でしたが、実はどこにも自分の本当の居場所が見つけられず、失意と孤独の内に生きてきたことを告白します。そんな彼が初めて分かり合える可能性を感じたのがベリンダだったのでした。同じ孤独な魂の束の間の触れ合い。
 所謂「迷惑な隣人もの」というコメディがあります。暴力的なまでに空気を読まず、状況をカオスに叩き込むトリックスターがメインキャラクターという作品で、僕は正直苦手なジャンルなのですが、探偵の初登場シーンも同じ呼吸で演出されていました。そしてここに至って、顧みるに、彼らもやはり孤独な魂の持ち主だったのではないか、ということに思い当たりました。
 しかし、そのことよりも(映画として)もっと重要だと思ったのは、そうであってもやはり、クリストフォルーがこれ以上ベリンダに干渉していたならば、それは見ていて居心地が悪かっただろうな、ということ。さすがは名匠キャロル・リード、その辺りの手綱さばきが絶妙。ソフト化されていない名作として有名だったそうですが、近日DVD化されるようなので、機会があったら是非見ていただきたいと思います。
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