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無伴奏ソナタ(オースン・スコット・カード)

 エンダー・シリーズばかりが紹介されているところや、ハインラインの『宇宙の戦士』との絡みで戦争ものSFはちょっとな、と作者の作品自体を何となく敬遠していたのですが、これは粒ぞろいの傑作短編集。まさしく読まず嫌いで損してました・・・以下特に良かった作品の感想を。(読む方によってはネタバレかもしれませんのでご注意ください。)
 「エンダーのゲーム」:長編化作品が『宇宙の戦士』との関係性やエヴァの元ネタとしてよく言及されますが、その元となった短篇ですね。大人の思惑で鍛え上げられたある少年兵士が戦略、戦術の才能を見出されやがて・・・という物語。結末は導入の設定からすると必然なのだけど、まさに「そうあるしかない」という要素と描写で配置され、むしろ語り口の完璧さに鳥肌が立ちました。短編版を推すファンも多いようですが、それも込みで長編が読みたくなりました。
 「呼吸の問題」:横断歩道の白線だけを歩いて渡れたら今日はラッキー、みたいな自分ルールのゲームというかジンクスみたいなものって誰でも割とあると思うのだけど、それをパラノイアックに拡大解釈した奇妙な味系の作品の系譜ってありますよね。(といいながら、すぐに思いついたのはダールの『お願い』くらいなんだけど。あ、それとキングの『十時の人々』も含められるかな。)これは「あるリズムで呼吸をするとそれは死の予兆である」ということに気付いた男の物語。導入が「あまりに大きな喪失に向き合った人間は無感覚に陥るものかもしれない」ということについての説得力のある描写だったので油断していたら、結末の妻と息子を想う主人公の気持ちに何故かシンクロして滂沱の涙。(電車のなかで読んでいる時だったので非常に往生しました。)それでいて最後の一文はちょっととぼけてる感じもあって、そのバランス感覚が絶妙だと思います。
 「磁器のサラマンダー」:人工知性が人と触れ合う内に本来あり得ないはずの「心」を獲得するが、しかしそれ故に主人公のために全てを投げ打って犠牲となる、という定番の物語がありますが、これに僕は弱くてですね・・・例えば『クレヨンしんちゃん 電撃! ブタのヒヅメ大作戦』のぶりぶりざえもんであったり、そしてもちろん『海底鬼岩城』のバギーちゃん!しかしこの物語では、「分かり合えたその瞬間こそが掛替えないのであって、それ以上に引き伸ばされた関係は果たして両者にとって幸せなのだろうか?」というその先にある視点も提示されていて、深い。※
 しかしまあ、何が素晴らしいかって、作者のレンジの広さというか引き出しの多さですね。巻頭の「エンダー」の次に置かれている「王の食肉」を読んだら(解説にあるように、マーティンを彷彿とさせる絢爛たるグロテスク・ファンタジー・SF)、その時点で「これはすごいことになってるかも」と予感させるインパクトがありました。収録作はどれも高水準ですが、それを超えたツボを突く作品が読者それぞれに必ずある短編集ではないかと思います。
☆☆☆☆1/2
※ところでこの作品の成り立ちは、そもそも妻へ送られたおとぎ話(Bedtime Story)だったそうで。なんてロマンティックなんだ。