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物しか書けなかった物書き(ロバート・トゥーイ)

物しか書けなかった物書き(KAWADE MYSTERY)
 「奇想コレクション」がどちらかというとSFに軸足を置いた叢書とすると、今回読んだ「KAWADE MYSTERY」はその名のとおりミステリに軸足を置いているのですが、どちらも近年の「異色作家」のくくりでのアンソロジーブームを牽引している選集です(どちらも河出ですね。やるなあ河出)。ただ個人的にグッとくるものは前者に多くて、不条理な展開や奇妙な味という点では共通しているにも関わらず、それがどうしてなのか自分自身でも整理できずにモヤモヤしていたのですが、この短編集の選者解説でそのヒントになる言葉が見つかりました。それは、ミステリの方が形式に敏感な作家が多いからというもの。ジャンルに還元しにくい物語が好きで手に取っているシリーズなので、そもそもの入り口で若干つまづいているということでしょうか。
 さて、トゥーイの作品は初めてだったのですが、プロットを脱臼させるような、狙ったオフビートな展開が持ち味の作家のようです。これは逆に言うと、SFに比べて確固とした定石があるミステリだからこそ「外しどころ」が明確とも言える訳で、実を言うとそれなりに面白いけれど「弾け方」の上限が見えたような気がしたので、途中で読むのを止めようかとまで思ったのですが、最後まで読んで良かった。というのも最後に行くにしたがって好みの作品だったから。やっぱり音楽のアルバムと同じで、配列って重要ですね。
 若く情熱的なベンは、亡くなった父と同じように裏社会でのし上がる野心を持っていた。今日はボスに面会する大切な日だ。親代わりの叔父とともに訪れたペントハウス。しかしそこで言い渡された最初の試練は余りに残酷な選択を迫るものだった・・・『そこは空気も澄んで』:収録作前半で一番好きだった作品。結末の余韻も含めて芸達者ぶりが味わえるのだけど、最初から最後まで定型を外れることがないのがちょっと残念。
 火遊びがらみで射殺された俳優のランスは、ある日墓場から甦る。まんまと自分の人生を映画化されたと聞いて、ハリウッドに物申さねばと向かうのだが、途中、軍資金稼ぎにカジノに寄ることに・・・『墓場から出て』:思わずこれこれ!となりました。行き当たりばったりみたいな展開とグルーミーな味わい。幻想小説の醍醐味が満載です。でも先日読んだライバーの『骨のダイスを転がそう』とごっちゃになりそうだな・・・
 クォークは突然保安官捕の訪問を受けた。事故で亡くなった夫婦のノートに彼の名前が載っていたというのだ。後ろめたいことは何もなかったが、あの時、彼はまずい事に巻き込まれた気分がなくはなかったのだ・・・『オーハイで朝食を』:集中随一と断言してもよいのでは?ツイストの効いたプロットもさることながら、それだけに留まらない行間を読ませる奥行きがあります。直前の『八百長』も同様ですが、一種マラマッド的な、底辺に生きる人々への共感が自ずと滲む描写(自伝的な要素もあるそうです)が素晴らしい。やけっぱちというのでもない、諦念とないまぜの人生肯定がある種の作品では通底しているような気がしました。
☆☆☆1/2