巨人と玩具(増村保造)

 増村監督というと、『でんきくらげ』とか先日観た『盲獣』みたいな(あるいはTVの「赤いシリーズ」等でもいいけれど)「飛び道具」的ジャンルがまず連想されて、「業の深い人々の織り成す因果の物語」という先入観があるだけに、実際観てみてそういう話だったら得心こそすれ驚かないというパラドクスがあります(いや、『盲獣』にはちょっと驚いたけれど)。
 ところがこの作品は、高度経済成長期のイケイケサラリーマンもの。当時の映画を観たことがあれば何となく想像できると思うのですが、主人公たちが「ぼかぁそういうの好きじゃないな」とか「あら、しょってるわね」といった会話をしているイメージ。実際、開巻当初はそういう雰囲気で、ハキハキしすぎな程のオーバーアクト、コメディタッチの演出なのですが・・・
 ワールド・キャラメルの宣伝部に勤める新入社員の西の目標は、万事につけスマートな課長の合田。大学の友人横山はライバルのジャイアンツに就職し、彼を通して同じくライバルのアポロ製菓の社員である都会的で大人な女性倉橋とも知り合った。ある日、喫茶室で偶然見かけた娘、京子に合田課長は目をつけ、会社のマスコットキャラクターとして売りだすことを画策する。それは近々やってくるライバル3社のキャンペーン合戦の切り札だった・・・
 映画のトーンが変調を帯びてくるのはキャンペーン合戦が始まってから。しかし冒頭からのハイテンション演技は変わらないままというのがむしろ常軌を逸した印象を深くする。1時間30分のランタイムの中で、登場人物たちがことごとく最初とは違った様相を見せてくるところは、むしろサスペンスやホラー的ですらあります。
 メディアの力で洗練され一躍アイドルになる京子はもちろん、いつしか手段を目的と履き違え、文字通り血を吐きながら一層の売り上げを目指す合田。人間性すら失っていく彼に失望しつつも、会社に踏みとどまる決意をする西に暖かい言葉をかけたのは、意外にも一番ニヒリスティックに見えたアポロの倉橋だった・・・。実際世間に対して斜に構えている彼女だけれども、物語の最初から最後まで唯一ぶれないそのスタンスゆえに、結果的に一番魅力的な登場人物に思われます。
 「社会を知るにつれ失われるイノセンス」というのは、ビルドゥングスロマン的物語としてはある種定番だけど、スーダラC調が好まれたこの時代(厳密にはもうちょっと後ですが)にこんなにペシミスティックな話を描いていたというのが監督らしいというか、物語時間内での落差が激しいだけに、冒頭に書いたような因果な話よりインパクトが強かったかもしれません。
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