血液と石鹸(リン・ディン)

 別にファイト・クラブについての物語ではありません。という詰まんない前置きはともかく、1.1本の分量が極端に短いサドン・フィクションであり、2.奇想系の話であり、3.紹介兼翻訳者が柴田元幸である、という要素を抽出するとどうしてもバリー・ユアグローを連想してしまう訳ですが、実際に読んでみると『隠し部屋を査察して』のエリック・マコーマックのテイストに近かった(あれほどグロテスクではないけれど)。
 「戦時下のベトナムからアメリカに亡命した波乱万丈の経歴の作家」というバックグラウンドを知った先入観のせいか、どの話にも不穏な空気が付きまとう。率直にいって、亡命作家とか例えば東欧圏の作家の作品を読む楽しみのひとつには、不謹慎ながら「ディストピア萌え」「不条理萌え」的な安全圏からの抑圧シミュレーションという側面があると思うのだけど、そういう点でのツボは残念ながら今回突かれませんでした。(※そもそもそういう話ばかりじゃありません。)
 ところで、名前から勝手に「アオザイの似合うクールビューティ」を想像していたのですが、眼鏡で小太りのオッサンだった。それが一番印象深かった。
☆☆☆