地球の静止する日(ハリー・ベイツ他:V.A.)

 裏テーマは藤子FのSF(すこし・ふしぎ)短篇の元ネタかな。
 と、大きく出てみましたが、これは割と最近出た尾之上浩司編・訳の角川文庫の方です。同じタイトルで検索しても、中村融編・訳の創元SF文庫版が先に出てきちゃうのがちょっと切ない(こちらも前に読んで大変面白かったのだけど)。実は「映像化された知る人ぞ知る原作SFを集めた」というコンセプトまで被っていて、それを気にしてなのか、巻末の解説で「2001年に企画された本です(こちらが先だったんです)」とわざわざ触れているほど。読んだ印象でいうと、中村編の方がやや渋いところを拾ってきている感じ(特に『ロト』は終末SFものとしては秀逸)。こちらは『トワイライト・ゾーン』や『アウター・リミッツ』の原作が多め、というと雰囲気が伝わるでしょうか。 
 それで冒頭の話に戻りますが、SF好きには有名だけど、藤子SF短篇にはパク・・おっとっと黄金期のSFにオマージュを捧げた話が多くて、例えばマシスン原作の『地球最後の男』は『流血鬼』に、ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』は『創世日記』に、この短編集の収録作でいうと、『アンテオン遊星への道』は『イヤなイヤなイヤな奴』に、『闘技場』は『ひとりぼっちの宇宙戦争』にアイディアが取り入れられています。冗談でパクリと書きましたが、藤子SFは「すこしふしぎ」な感じに消化された着地点が実に鮮やかなんですよね。逆説的ですが、そういう意味でのS・Fなニュアンスをもった物語が主に収められていたような気がします。
 でも一番異色かつ面白かったのは、『異星獣を追え!』。個人的な研究欲と名誉欲から、凶暴かつ狡猾でテレパシー能力まで備える異星の獣を密輸した主人公。彼は些細なミスで街に獲り逃してしまうが、繁殖能力も高い「プードリイ」は人類を危機に追いやる可能性すらあった。限られた時間の中で、しかも人目に触れず始末しなければならない・・・という話ですが、後半、本当に予想もしなかった展開に!独特のグロテスクな奇想がたまりませんでした。
 そうそう、実はイブ・メルキオール作だったことでも有名な『デス・レース』の原作も収録されております。コーマン製作版とも全然違う話やけども。中村編の方と混乱しないように、こちらを表題作にしても良かったんじゃないかなぁ・・・
☆☆☆1/2