ドクター・アダー(K.W.ジーター)

 内容についてはid:Dirk_Digglerさんのこちらを参照いただくのがよろしいかと。いつもながらネタバレなしなのに的を射た熱い感想です。
 それ以外の個人的メモ。翻訳はサイバーパンクの伝道師、故、黒丸尚だったんですね。実際の事情は知らないけれど、ギブスンといえば黒丸訳→サイバーパンクのビジュアル・イメージは『ブレードランナー』が確立→ブレランといえばディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が原作→ブレランの続編(「電気羊」に非ず)を書いてるのがジーター、しかもこの作品の序文はディックが書いているし、なおかつ物語自体も「コンピューター・ネットワークに拡張された精神」が登場するし。お、上手いこと繋がった?(ところで今回ウィキペディアで知ったのですが、黒丸氏も電通の人だったんですね。鏡明もそうだけど、SF界は二束のわらじで行ってる人が意外と多いな。)
 実は、読む前はバタイユの『眼球譚』みたいにトラウマ系かと思って相当な覚悟を持って臨んだのですが(痛かったり、グロいの苦手なんです・・・)、実際はアルフレッド・ベスターの諸作の下世話さを割り増ししたかのようなある種のワイドスクリーン・バロックですね(舞台は宇宙じゃないですが)。平熱の狂気は本当に引くけど、サービス精神旺盛な結果としての「何でもあり」だったから楽しく読めました。ベスターを連想したのは、プロット細部の精密な整合性よりは、イメージの瞬発力だったり物語の勢いを重視する姿勢とか、おもしろガジェットの豪快な使い捨てぶりのせいかも。
 今回のツボ:敵に包囲され絶体絶命の中、「心配するな、ここから逃れてみせる」とキメたあとの鬼畜展開コンボ。逃れてみせるってアンタ・・・
☆☆☆☆