TAP(グレッグ・イーガン)

 時はまさにセンター試験の真っ最中、僕の頭の中には「パーマンパーマン、パーマーン、遠くで呼んでる声がする〜♪」が激しくリフレインしていた。何故こんな時に限って・・・「いやあ、あの時は本当に発狂寸前だったよ」と、大学の新歓コンパで知り合った友人にその話をすると、「ああ分かる!分かる!俺はラーララララ、ルンナってベリンダ・カーライルが歌うのを止めてくれなかったよ」と盛り上がった、ということがあった。
 冒頭の「新・口笛テスト」を読んで、そのエピソードを思い出しました。印象的なフレーズが変に刷り込まれて、本当に集中したいときに限ってリピートされる、という経験は誰でも持っていると思うのですが(星新一にもそういう話があったような)、それをパラノイアックに拡大したような話。解説にもあったけど、それでも一応科学的な理屈をつけようとするのがイーガンらしいというか。
 ところでイーガンの作品は大雑把に分けて、「世界の成り立ちを詐欺すれすれの論理のアクロバットでひっくり返してみせる」という話か、「アイデンティティの根拠を科学的に執拗に問い詰める」という話に大別できると思います。個人的には後者の「人間というのは肉体というハードウェアに人格というソフトウェアが走っているだけで、ミクロの事象のレベルで見れば、感情というのは電気信号と化学伝達物質のやりとりに過ぎない。だからそれらを制御できるほど充分に科学が発達すれば、人格でも書き換えられる」という容赦のなさにこそセンス・オブ・ワンダーを感じるのですが。
 ただSFファンならご存知のとおり、イデオロギー的な言及が多い作家でもあって。そもそもSFは思想表明的な側面も強いジャンルではありますが、隠し味程度ならいいんだけど、あんまり強調されると説教臭い感じが否めないというか。この短編集の読後感としては(読み返すと数としてはそうでもないのだけど)そちらの印象が強かった。あえて批判的にいうなら、そういうことが気になる程度にしか物語がドライブしていなかった、ということかもしれないですね。「散骨」「自警団」といったホラー色が強い異色作がむしろ面白かったです。
☆☆☆