20世紀の幽霊たち(ジョー・ヒル)

 雑誌などのレビューでもキングの息子ということは伏せてあるものが多かった。販売上は強力なフックだと思うのだけれど、やっぱり先入観を排して読んで欲しいということなんでしょうか。
 さて内容ですが、収録作はどれも水準以上と断言してよいと思います。ただ圧倒的な傑作というのもなかったかなあ。気に入った作品は、
 ○アンソロジストとして長年活動し、ホラーというジャンルに愛憎半ばする思いを抱く主人公が見つけた「まれに見る有望新人」とは?後半の転調が効果的な:『年間ホラー傑作選』
 ○僕の親友はビニール風船でできていた。ヒル版「スタンド・バイ・ミー」:『ポップ・アート』
 ○キングの息子も野球好きなのか?しみじみさせる親子愛:『うちよりここのほうが』
 ○ラムジー・キャンベル風不条理劇:『おとうさんの仮面』
 とにかく器用というか、なんでも書けるレンジの広さは素直に賞賛したいところ。ただ一方で器用貧乏というか、なまじ完成されているだけに「のびしろ」があるのか不安も感じる。著者解題でかつて純文学を志向していたこともあったと書かれていて、なるほど納得という部分もありました。上にあげた中でも『ポップ・アート』は特に好きな作品なのですが(泣けた・・・)、正直いうともう一押しほしい、あるいは大人になってからの件に蛇足感がありました。個人的には「思春期に見た淫夢」のような『お父さんの仮面』のテイストを買いたい。
 ところで、訳者陣は白石朗深町眞理子などキングの翻訳で知られる人選で、さすが分かってるなあと嬉しかったのですが、例えばこの短編集でいうと『蝗の歌をきくがよい』みたいに鉈で一刀両断したような題にキング的センスを感じて、よく考えたらその僕が無意識の内に認識していた「キング的なタイトル」というのは、実は白石朗によるすり込みだった、と今回初めて気がつきました。そう考えると翻訳者の影響と言うのは想像以上に大きいな。
☆☆☆1/2