ハローサマー、グッドバイ (マイクル・コーニイ)

 ※ネタバレ注意:ちょっと事前情報を入れすぎたきらいがあった。いわく「知る人ぞ知るSF青春恋愛小説の傑作」「最後の1ページで世界観をひっくり返すどんでん返しが!」。自分でレビューや感想を読んでおいてなんだけど、落としどころを確認するような読書ほど味気ないものはない訳で。けれどもそれらは、半分当たっていて、半分外れていた。
 例えば前者についていうと、甘いばかりの恋愛小説ではない。(ちょっと脱線するけれど、読書ずれした人が多いと思われるSFファンがなぜ『夏への扉』には甘いのか、僕は昔から解せないのですが・・・)ヒロインに対置される少女リボンの、状況によって変わっていく姿を描く筆致の容赦なさときたら・・・
 立体的な人物造型という点では、脇役に至るまで平板なキャラクターが存在せず(実はヒロインのブラウンアイズがいちばんステレオタイプだったりする)、徹底した俗物として設定された(主人公の両親含む)敵役である政府関係者たちですら彼らの倫理に則って行動していたことがわかる。ただ、究極的な状況に置かれた人間の醜さがぶつかりあう終盤の息苦しさや、善人にすら陰を見つけ出さずに済まさないシニカルな世界観に、なるほど英国SFだなと納得したりして。
 さて、世界観の転倒という意味では『流血鬼』的でもありましたね。でもなにかの紹介にあったように主人公たちは思春期前、ではないと思うなあ。個人的にはタイトルのイメージ喚起力の勝利という気がします。
☆☆☆1/2
※あとから気付いたのですが、「全面核戦争への恐怖」モチーフの残響もありますね。