ナツメグの味(ジョン・コリア)

 最近の異色作家系叢書の充実で、よく知らなかった作家の短篇もかなりまとまって読めるのはありがたいことです。さて今回の作家ジョン・コリアは、ミステリ系・ホラー系アンソロジーにその作品が収録されることが多く、文学史的にはサキ、ダールと並んで「奇妙な味」系作家の代表ということで位置づけられている印象です。
 ところが「みどりの想い」や「ナツメグの味」といった代表作は選集で何度も目にするものの、「コリア短編集」の形ではあまり読んだことがないなと思っていたのですが、それもそのはず、この本と『炎のなかの絵』以外は現在出ていないようです(僕が持ってたのはちくま文庫版でした)。個人的な思い出としては、確か小学校の時に「豆たぬきの本」みたいな下世話なノベルスに収録されていた「みどりの想い」が挿絵と併せてトラウマ級のインパクトで、それが今に至る読書傾向を決定付けたような気もするくらい・・・
 さて収録作品ですが、サキがクラシックな怪異譚のテイストを残していて、ダールがモダンな不条理劇とすると、そのちょうど中間のような印象ですね(作家の年代自体がまさにそうなんだけど)。傑作選のため書かれた時期がバラバラということもあり、ハッピーエンドや洒落た掌編がある一方で、陰鬱かつペシミスティックな結末のものも。どちらかというと後者のイメージが強かったのだけど、こうしてまとまった形で見ると結構バラエティに富んだ振幅のある作風だったことがわかります。どの物語にもイギリス人らしいシニカルなユーモアが忍ばせてあるのもいい。また物語のスタイルとして大別するとプロットのツイストの切れ味で読ませるもの(「猛禽」「だからビールジーなんかいないんだ」)と、積み上げていく描写とニュアンスで怖がらせるタイプ(「ナツメグの味」「ひめやかに甲虫は歩む」)があるのですが、個人的には後者にやっぱり上手いなと唸らされました。
 ところで最近の新訳ブームのせいなのか、この短編集も新たに訳を起こしているのですが、和爾桃子さんの訳は間違った方向に迎合しているというか筆が走りすぎな印象でした。書かれた時代もあるし、ちょっと堅い(硬い)くらいのいわゆる翻訳文体でいいと思うんだけどなあ。(まあそこは好み次第なんだけど。)
☆☆☆☆