竜を駆る種族(ジャック・ヴァンス)

 「スタートレック」(ピカード艦長の方)を観ていた時、今回は「世界の警察」を自認するアメリカの在り方を揶揄している、という話でいいんだよな、まさか大マジじゃないよね?とちょっと不安になるような微妙なエピソードがあったことを思い出しました。こういう「ある勢力間のパワーゲーム」という構造が中心になっている物語というのは、どうしても「現実世界の写し絵」として受け止めてしまうところがあるんですよね。(作り手の意図はさておき。)
 遠い未来の人類の黄昏の時、かつての植民惑星と思しき辺境の星で、ささやかな領土は文人肌のジョアズと武闘派のカーコロの勢力に二分されていた。たびたび戦争を仕掛けてくるカーコロはジョアズの悩みの種であったが、彼はそれ以上に深刻な問題の到来を予感していた。自分の予測が正しければ、父祖の時代に襲来した「ベイシック」が再びこの星に訪れるのだ・・・
 主人公たちはかつて侵略を受けた爬虫類星人を捕らえて、「品種改良」して戦士として使役しているのですが、元々侵略してきたベイシックも「改良した人類」を兵隊にしている、というその対決の構図がなんともグロテスク。しかもここに「波羅門」という欲望を滅却し戒律を厳守することに全てを置いている人類の第三の勢力が絡んでくるのですが、悟ったかのような禅問答のような抽象的な発言しかしない彼らが、異種族戦争においてギリギリの選択を迫られたときに採った行動は・・・
 まあとにかく誰も彼もが全く英雄的で「ない」。中篇ということもあって、内面に踏み込んだ描写はほとんどないのだけど、そもそも人間というのはみっともない存在なんだという信念に基づいて書かれたような話でした。その潔さがいい。それと巻中、暗君ぶりを遺憾なく発揮するカーコロにイライラさせられていたら、ジョアズが彼に対して最後に下した決断に思わず(後ろめたくも)カタルシスを感じてしまった。作者にまんまとしてやられた感じです。
 しかし長くはないストーリーの中で一番印象に残るのは、ベイシック族が人類から思わぬ反撃を受けて、にっちもさっちもいかなくなると知能を捨て去って踊りだす箇所。全滅覚悟で総攻撃とか総員退却にしないのが全くの架空でありながらリアリティがありました。センスってそういうところに感じます。
☆☆☆