道化の町(ジェイムズ・パウエル)

 ある短編集を1冊まるごと翻訳、でなくベストセレクションゆえ当然かもしれないけれど、全てがシングルカット級というのはすごい。なので最初、個人的には「久しぶりに読書カテゴリでの5点だな」と思ってたのだけど・・・
 とにかく作者の奔放かつ暴走的な発想力が!!通常ありえないと思われる要素やジャンルの接木が見事な花を咲かせている、とでもいうのでしょうか。例えば、この短編集のことではありませんが、歴史大河小説と見せかけてラブコメとか(これはありがちだなぁ・・・コニー・ウィリス?)、ゴシックミステリと見せかけてSFとか(それはちょっと前に映画になったあれか・・・)。突飛さを上手く例えられませんが(というか、このジャンルとこのジャンルと具体的に書くと、それだけで読書の楽しみを奪ってしまいそうなので書けないのですが)、作者がどこに落としどころを設定しているのか、最後の一文を読むまで全く見えてきません。
 それに加えて、地の文のレベルを見失ってしまうほどのマトリョーシカのような入れ子構造や本題に戻ってくるのか危ぶまれるほどの主人公の妄想、架空の世界の詳細すぎる設定(短篇なのに!)といったように(小説中で期待される)本来の機能を逸脱するほどの過剰な「あそび」の要素。ただこれらは前衛的なスリップストリームの小説みたいに、「難解な内容をゴリゴリ咀嚼して飲み下すのが快感になってくる」というタイプ(個人的には国書の「未来の文学」に多い気がする)ではなくて、純然たるエンターテインメント小説なので、ただひたすら遊園地のアトラクションのように作者のテクニックに身を委ねて振り回されるのが楽しいという印象です。
 ところで最後の3本だけカラーが違いまして。ナンセンス(コメディ)・ミステリで、しかし、この3作品も別のくくりで読んだのならば収録作中のベストに選んだかもしれないという水準(実際締めである表題作『道化の町』はEQMM読者賞を獲得しています)。「バカバカしいことをしているように見せかけて、大変緻密なパズラーを展開する」という作品の志向のため、当然ながら(しかし美しく)理に落ちてしまうのが逆に物足りなく感じてしまう。ここら辺の印象は、読者の読書傾向が現代文学寄り、SF寄り、ミステリ寄りなど軸足をどこに置いているかで変わってくるような気がします。
(こちらの方のあらすじ紹介が的確。(またもや!)→奇妙な世界の片隅で 不思議の国のミステリ ジェイムズ・パウエル『道化の町』。)
個人的なツボ:それで腑に落ちました。僕はてっきり自分が正気だと思っていたのです。
☆☆☆☆1/2