限りなき夏(クリストファー・プリースト)

 プリーストの作品はSF、ファンタジー、あるいはホラーの意匠をまとっていても、単なるそれらの組み合わせを超えた感興が呼び起こされるところがツボなんだと思っていて。それはSFの秀作を評してよく言われるところの「センス・オブ・ワンダー」というのともちょっと違う。例えば、味覚でいうと、甘じょっぱいとか、塩辛いとか、味の要素の組み合わせで言い当てられる食べものもあるけれど、「なんだこの味は!そもそもおいしいの?」というボキャブラリーを超えた味のものもある・・・いやいや、そもそも味覚に例えたのが間違いだったようです。とにかく、刺激されて初めて自分にそういう受容器・感覚器があると知らされるような、プリーストという作家への期待は、そういう独特の読書体験です。
 ところがこの短篇集の6本目までは、正直毒にも薬にもならないような凡庸な作品に感じられて。期待値が高すぎたのもあるけれど、やっぱり長編の作家なのかなという気も。しかし最後の2編「奇跡の石塚(ケルン)」と「ディスチャージ」は筆者らしいトリッキーさと語りの魔術が堪能できるものでした。とくに後者は「従軍もの」。『スローターハウス5』や『カチアートを追跡して』が大好きな僕としてはそれだけでポイントが高かった。(俺は本当に「地獄めぐりもの」が好きすぎる。)
 話は変わりますが、やはりというか、プリーストも性的オブセッションの作家ですね。『魔術』を読みながらそういう気がしてたのだけど、率直に言ってこれくらいが普通だとすると戸惑うなぁ。みなさんがああいう描写をどのように受け止めているのか、非常に気になります。自分が淡白すぎるだけなのか・・・
☆☆☆(全体として。最後の2編は☆4)