宝石泥棒(山田正紀)

 『世界の怪獣大百科』※1という本をご存知だろうか?これは『全怪獣怪人大百科』で有名なケイブンシャの大百科シリーズの一冊で、そのワールドワイド版とでもいうべきものだった。ソースは特撮映画はもちろん、小説、UMAと何でもありのいい意味で無茶な本で、映画みたいな図版がないものはイラストで書き起こされていたのだが、またそのイラストが一種独特な迫力のあるもので、いまだにトラウマ的な刷り込みとして残っている。
 さてその『世界の怪獣大百科』にキャンベルの『影が行く』の物体Xなどと肩を並べて掲載されていたのが、視肉、馬蝗などの『宝石泥棒』に登場する多数のクリーチャー群。この「群」というのがポイントで、小さい頃は物語は二の次で、いかに沢山の種類の怪獣が登場するかが興味の焦点という「怪獣に貧乏性」な子供だったので、そんなに色々怪物がでてくる『宝石泥棒』とはいったいどういう小説なんだろうか?と、その不思議な題名のイメージと相まっていつか必ず読みたい1冊となったのだった。
 さてそれから幾年月。長じるにつれ知恵もついて、日本SF史的に重要な作品らしいとか、オールディスの『地球の長い午後』へのオマージュであるとか、そういう周辺情報が入ってきて何となく作品の概要を想像できるようになった。なんならもう読んだような気になっていた。そして今回、二十数年の時を経てついにそれを読む日がやってきたのだが・・・
 「原始社会に退行し変わり果てた遠未来の地球で、ある事件をきっかけにその世界の成り立ちの秘密に触れる青年の冒険」というのは今となっては定番の物語で、現在書くならもう一ひねりしないと厳しいところだけど、この当時は日本SFの黄金期ということもあってまだセーフだったのだろう。むしろそのオーソドックスさを味わいたいところ。断章ごとにクリフハンガーな事態を設定して、ジャンプカット的にそのしばらく後(事態が収拾した後)の状景につなぐという技法が多用されているのが印象的。ただ「ジャンプの打ち切り漫画」みたいな結末は・・・とはいえ、ずっと読みたいと思い焦がれた作品に触れるのはなかなか感動的な体験ではありました。
☆☆☆1/2 
※ いまネットで調べたら、実は竹内義和岡田斗志夫がかかわっていたようで。そうだったのか!