キング随想

 先日『深夜勤務』所収の「波が砕ける夜の海辺で」を読んでいて、なんとなく既視感というか既読感があって、何だろうなとつらつら考えていたら長嶋有の『エロマンガ島の三人』所収の「女神の石」だった。
 「波が砕ける〜」は後に『ザ・スタンド』として発展する、インフルエンザで破滅した後の世界に生きる青年たちの人間模様をある夜の一場面として切り取った短篇(村上春樹でいうと「蛍」と「ノルウェイの森」の関係)。「女神の石」も似たシチュエーションの物語で、これは男3人に女一人、そこに視点人物として第4の人物である少年が設定されているのがポイントで、長嶋有の設定巧者ぶりを感じさせられるところでもありました。
 実は「女神の石」を読んだとき連想したのは椎名誠で、それは文明の縛りを解かれた時の人間のプリミティブな暴力性を描く際のトーンに共通のものを感じたからでした。シミュレーションとして魅力的なのか、「世界が終わった後」というのは洋の東西を問わず割とSFでありがちな設定ではありますが、それが日本人ならでは雰囲気だったのですね。ところがキングの作品は叙情的な世界観なのに人間がドライで殺伐としていて、なるほどなと妙に腑に落ちる感じ。
 長嶋有によるジャンル小説(長編)を読んでみたい。