レイヤー・ケーキ(マシュー・ボーン)

 「組織で生きていくとは」ということについての映画だと思う。別にギャング組織に限らず。
 堅実な取引で知られたドラッグ・ディーラーの主人公。ひと財産できたので早々と引退を考えていたが、勝ち逃げを許さないのが世の中、組織のボスからやっかいな仕事を引き受けさせられる。それは「出所がうさんくさいエクスタシー100万錠をさばく」ことと「借りのある有力者の失踪した娘を探し出せ」というものだった・・・
 対外的な交渉の場で「手数料の確保」や「請負業務の範囲」みたいなものは、100%明文化できる訳ではなく、その線引きにはグレーゾーンというものが常に存在します。なので、うっかりその場の雰囲気で「承知しました」とでも口を滑らそうものなら大変なことになる、というのは社会人の皆さんだったらよくご存知だと思います。ただ「ちょっと待てよ?」と本能が告げるときには明確にノーを出さないといけないけれど、なんでも突っぱねていたら協議自体が成立しない。その押し引きの按配、さじ加減こそが「かけひき」なんでしょうけれども・・・
 これは渉外のみならず、組織内部での上司に対してや、別の部署との協議においても同様で、なんでもOKしていたら埒が明かない。「それはあなたの仕事でしょ」とはっきりさせるのも重要な交渉で、意外とそういうことが言える人が「やる人」と思われがちだったりします。実は対外的なことよりも組織内部でのそういうやり取りが厄介だったりするんですよね・・・
 『ロック・ストック〜』や『スナッチ』のスタッフによるクライム・ムービーなので、話の転がし方や雰囲気も良く似ていますが、それらとの違いは「組織での身の処し方」についての描写が通奏低音として全編にあること。という訳で上のようなことを書いてみたんですが、なんだか身につまされる感じでした。
 ところで、『ミュンヘン』の時はもっさいオッサンだなあと思っていたダニエル・クレイグですが、007を通過した眼で見るとワイルドで格好よく見えるから不思議。
☆☆☆1/2