コワイ女(雨宮慶太、鈴木卓爾、豊島圭介)

 オムニバスなんだけど、とにかく『鋼』が突出してよかった。不条理としかいいようがない、つじつまの合わない話で、目が覚めてから全容を思い出そうとしても霞が掛かったように茫漠としてるんだけど、性的な要素だけは妙に生々しくて・・・という、つまり夢のような感触の映画。
 なにも縫っていない足踏みミシンを果てしなく踏み続ける鋼(ヒロイン。上半身はズダ袋をかぶっている)のことを「ミシンが好きなんだよ。女の子だからな」というセリフで爽やかに説明しきってしまう兄。「女の子=裁縫上手」という社会通念上の関係性から具体的な対象を欠落させて、「女の子→ミシン好き」と短絡させるようなおかしさは吉田戦車が得意な手法だけど、まさしく「伝染るんです」的なシュールな画が続出する。こういった風に、怖がればいいのか、笑えばいいのか、もしかしたら泣いたらいいのか、観客の感情を宙吊りにするというのが(コメンタリーによると)監督の狙いだったそうで。
 こういう低予算のホラー企画でも手を抜かない全力ぶりが頼もしい香川照之、というのはいい意味で予想通りですが、主人公の「状況に流されて、文字どおり<得体の知れない女の子>に関わって、取り返しのつかないところまで行ってしまう」という設定は、鑑賞中は当たり前のこととして違和感なく受け入れてしまうのだけど、(柄本明の息子であるという)柄本佑の「その方向しかありえない」という佇まいがあってこそ、と後から気付かされる。地味だけどポテンシャルがある役者さんだと思います。これからが楽しみです。
 そして、鋼ちゃん役の菜葉菜。「この脚本の趣旨はエロスの探求である」と喝破し、120%の役作りでオーディションに臨んだという心意気は見事に反映されていたと思う。デ・ニーロ・アプローチでも到達しえない何かを達成していた(エロス方面で)。あと、初デートにあんなケバい服装でやってくる(足だけだけど)というところも、意気込みが田舎ヤンキー的に大正解でディテールに抜かりがない。そしてあの足でご飯3杯は堅い。
☆☆☆☆☆(「鋼」のみの点数)