【新釈】走れメロス他四篇(森見登美彦)[rakuten:book:12005528:image]

 文字通り正真正銘の企画もの。作者のビブリオグラフィー的にも今のタイミングしかありえない。
 名作の誉れ高いクラシックを森見流に再話。基本的にプロットは(本質的には)同様なんだけど、そこから提示される結末は全く別の解釈で・・・ということはなく、これまたほとんど原作と同じ結末に落ち着く。でも、そこが作者の本質的な健やかさを反映しているのだというように好意的に解釈もできると思う。その一方で、(作者本人は明朗なキャラクターなのに)割と好んで取り上げる「クリエイターの業」というテーマは、今回は借り物の枠組みだったせいか「肺腑に届く」というほどの力強さがなかった印象。
 作家というのは卓抜なプロットで唸らせるタイプもあれば、なんでもない話を語っているのに最後まで惹きつけてやまないストーリーテラータイプもいる。(狂騒的なテクスチャーのせいで気付かれにくいけれど)どちらかというと作者の本質は後者ではないかと考えているのですが、森見ワールドへの没入こそが目的の読者には、予定通りのランディングというのは些かの瑕疵でもない。「図書館警察」や「詭弁論部」といったいつもの要素もしっかり登場するし、読んでいる間ひたすら楽しいことは請け合いです。
 ところで、テイストもスタイルもバラバラの各作品を連作として繋ぎとめる斉藤というキャラクターがいるのですが、傲岸不遜な彼の顛末を語る『山月記』は、流れからいうと(発表順にこだわらず)最後に配置すればよかったのに、とちょっと思いました。
☆☆☆1/2