ユメ十夜(V.D)

 競作形式のオムニバスは、監督が独自性を発揮したくなって原作とはかけ離れたものになってしまい、かといって潤沢な予算が割かれる訳でもないので「新しい解釈」も完成品を観たらグダグダみたいな結果になることが多い。江戸川乱歩の同様の企画などそれが顕著だったけれど、この作品も全体としては同じ轍を踏んだ印象。こういうネタは原作への愛がないと難しいのではないでしょうか。
 というところで、夏目漱石ファンとしては、どうしても原作への忠実度が高い第二、三、九夜の評価が高くなってしまう。特に第九夜。商売を考慮しないなら、すべての作品でストイックにこういうアプローチに徹して欲しかった。というか、筑摩書房の「こわい話」というアンソロジーに収録されていたくらいだから、普通に映画化してもホラーになるはずなんだけど。(まあ正攻法で映画化するのが一番金がかかるという現実問題はあるけれど・・・)
 かといって、飛び道具的なアプローチを全否定するものではないのです。松尾スズキによる第六夜は結構面白かった。もともと落語みたいな話だから、ふざけても大外れはしないエピソードだし。ただ「2ちゃんねる語」が正直寒かっただけで。ところで「2ちゃん用語」については、僕は自分の中のイントネーションがデフォルトだと思っていた。文脈からしてもその意味するところからも自明のものだと信じていたのだけど、他の人は全然違う読み方をしているのかも、ということに気付かされたことが一番面白かったりして。(しかし「罠」とか「鬱」とか、ああいうリズムで読むのかね?)
 脱線ついでにもうひとつ、第四夜で幼い日の主人公を「漱石」と呼ぶのは違和感があった。この場面は「金之助」でよかったのではないだろうか。観客への親切設計を心掛けるあまり変なことになる(あるいは蛇足である)例というのは最近多いけれど、もうちょっと客の読解力を信じてほしいものです。
☆☆☆(でも香椎由宇戸田恵梨香にプラス☆)