棄ててきた女(V.A)若島正:編

 「異色作家短篇集」の英国編。時期もテイストもばらばらの作家陣を「異色」のくくりで編んだアンソロジー。こういう方針の短篇集は一度も読んだことのない作家に出会えるから嬉しい。
 さて今回の個人的な収穫で、収録作中一番よかったのはL・P・ハートリー『顔』。私(主人公)の友人に、あるタイプの女性の顔に偏執的な情熱をもった男がいた。彼は運良くそのタイプの女性と結婚したが、ほどなく事故で彼女を失ってしまう。彼の落胆ぶりを居たたまれない思いで見ている友人たち。そんなある日、偶然「そのタイプ」の女性を友人の一人が見つける。私は彼が出会うきっかけ作りを頼まれたのだが・・・
 中心人物である「友人」と狂言回しである主人公の関係が、普通なら親友のような近しい間柄の設定とするところを、飲み会などで何となくよく一緒になる友達、という距離感にしているところが上手い。事故の後で「あるタイプの女性」を発見するのが、主人公ではなく別の友人という話の運び方にもストーリーテリングの妙を感じる。ごく短い物語なのに、そういう要素の積み重ねのおかげで、人間関係の描写にとても説得力がある。ペーソス溢れる読後感だけど、特定の言葉にできるほど強くはない「感情」以前の空気というか雰囲気の構築が素晴らしい。
☆☆☆1/2(『顔』は5点)