元気なぼくらの元気なおもちゃ(ウィル・セルフ)

 「奇想コレクション」はSFプロパー(といってしまっていいと思うんだけど)の選集だと思ってたら、今回は変化球なのかスリップ・ストリームですらない現代文学だった。「奇想コレクション」に外れなしという信頼感が自分の中にはあるので出たらとりあえず読むのだけど、こういう予想外の作家は嬉しいハプニング。ウィル・セルフという作家単体だったら手にしたかどうか・・・
 この本の作家紹介のエピソードで「ジャーナリストとして議員の取材目的で乗り込んでいた飛行機の中でもキメていたほどのジャンキーだった」とあったけど、なるほどクスリ関係の描写が真に迫っている。でもそれは作家を特徴づける一要素(まあキャッチーではありますが)であって、人間の脆さとか愚かさの描写のリアリティにむしろ力がある人だな、というのが読後の印象でした。
 自分が面白かった収録作を挙げると、『ヨーロッパに捧げる物語』:しゃべり始めてもいい年頃の子供なのに、ハンピーは意味不明な言葉しか発さない。それは実はドイツ語で・・・→子供の愛らしい描写に萌える。高齢出産に不安を感じている妻という設定に上手さを感じた。
 『リッツ・ホテルよりでっかいクラック』、『ザ・ノンス・プライズ』:ドラッグ・ディーラーの兄弟の栄枯盛衰を描く。→この作家の「スタイル」の引き出しの多さに感心。それと「短い描写でことの成り行きを一気に語る」タイプのストーリー・テリングが自分のツボだと改めて気づいた。内容以前にドライブ感にやられる。
 『元気なぼくらの元気なおもちゃ』:世間的には成功者である精神科医ビル。傲慢な彼が気まぐれで拾ったヒッチハイカーに仕掛けたゲームは、いつしか自分の浅薄さを焙り出して・・・→作者のシニカルな現実認識が遺憾なく発揮された小説。でも高みから見下ろすような嫌味さはないです。
 最近同じような傾向の読書が続いていたので、いいアクセントになりました。
☆☆☆