デス博士の島その他の物語(ジーン・ウルフ)

 全くもって好みの問題なんだけど、「現代文学」によくあるような「アクロバティックな構成」とか「多様な読みの可能性」みたいなものがピンとこない。(そういう試みが物語上の必然性と一致していると感じられたのは、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、J=P・トゥーサンの『浴室』ぐらいかな。)ウルフとはやっぱり相性が悪いみたいである。

 少年は、離婚した(貞淑とはいえない)ママと一緒に、人里離れた海岸近くのロッジで暮らしていた。「大人の都合」を押し付けられた彼の孤独を癒してくれるのは読書だけ。そんなある日、ヴェルヌ風の冒険小説からいつしか現実世界に登場人物が現れて・・・『デス博士の島その他の物語』

 ニコラスは精神治療を目的として、木星の白斑上空に浮かぶ強化ガラスで作られた人工の衛星に送られた。張り付いた「海」と精神治療を目的とした人工知能であるらしい「島」アイランド博士。そこには既に患者として穏やかな少女と暴力的な青年イグナシオがいた・・・『アイランド博士の死』

 という、2作品は素直に楽しめたのだけど。これは技巧的な側面より、ロマンティシズムやセンチメンタリズムという自分の好みに引き寄せて読む余地があったからだと思う。『デス博士〜』は収録されていた『20世紀SF』で初めて読んだ時にとても面白くて、もっとこの作者の作品を読んでみたいと思ったのだけど、どちらかというと『アメリカの七夜』みたいな構造がトリッキーなものの方が本分らしいと分かってがっかりしたのだった。むしろ現代ミステリに慣れ親しんだ読者の方がすんなり飲み込みやすいのだろうか?個人的にはミステリは古典どまりなのでよく分かりませんが・・・複雑さ故に「よし」とする評価は肯んじ得ない感じ。
☆☆☆