魔法(クリストファー・プリースト)

 この作家のスタイルからは、「もし○○だったら」という前提を徹底的にシミュレートする思考実験的な印象を受ける(すべてのフィクションは大なり小なり思考実験的なものだとは思うけれど)。そういえば『奇術師』の主人公二人が自らの生い立ちを語るパートにもそういう匂いがした。(でも直接的に思い出したのはニコルソン・ベイカーの『フェルマータ』だったりして。似たようなネタでも作者が違うとこれほどテイストが違うものなんですね。) 
 ある種のファンタジー小説である一方、感情の機微、些細なことをきっかけに移ろう心の有様の描写が徹底していて、ちょっと重めの恋愛小説でもある。この物語で扱われている「ある能力」っていうのは男女間の力学のメタファーなんだな・・・みたいな分かった風なことを思いついて、一人で悦に入ってたら結末は! 
 なんかヘンなもの読んじゃったなあ・・・という気分になりたいマニアックな読書家にはお薦めです。
☆☆☆