魔法使いは誰だ(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

 魔法使い版『渡鬼』。前に読んだ『ダークホルムの闇の君』がまさしくそんな感じで(家庭内の諍いがメインだし)、けれども正統派ファンタジーに対する皮肉を込めて、あえてそういうスタンスを取っているような雰囲気もありました。さてこの作品は・・・

 シリーズとしては『大魔法使いクレストマンシー』の中の一冊。どちらかというと児童むけのシリーズということだったので、もうちょっとストレートにファンタジーな路線かと思いきや、相変わらずの『渡鬼』節。物語は魔法が禁じられた世界で、かつて魔法に関わって処刑された家族を持つ子供たちが集められた寄宿学校を舞台にしている。
 しかし同じ寄宿学校が舞台でも『飛ぶ教室』みたいに「根性の座ったまっすぐな性格のリーダー」なんかは登場しないし、彼ら生徒を導くべき「気骨のある、心根の優しい先生」もビタイチいない。すべての登場人物が己のエゴのままに行動し、足を引っ張り合う。「禁じられた存在」としての有り方を厳しく教えてくれたと思っていた先生が、実は保身に必死だっただけだったり、自己犠牲の精神を発揮してくれた友人に対して(恩知らずにも)疎ましさを感じたり、という徹底した描写。「組織」というもののカリカチュアというよりも、そういった「黒い」部分は誰にでも(小中学生にだって)あるということを的確に描き出している。(ちょっと『蠅の王』みたいですね。)
 それでもエンターテインメントのファンタジーとして成立しているのは、文字通りの「デウス・エクス・マキナ」としてクレストマンシーというブレのない完璧なキャラがシリーズの中核として存在するからなのでしょう。

 いままで『渡鬼』みたいにストレスフルな番組をあえて見ようという視聴者が結構な数存在する、ということがどうにも理解できなかったんだけど、ちょっとだけ分かったような気がしました。
☆☆☆1/2