みんな行ってしまう(マイケル・マーシャル・スミス)

 評判になってるシングルカットされた曲が目当てでアルバムを聞いてみたら、他の曲はまあまあだった、みたいな印象。SFというよりホラーの要素が強い短編集。

 どの収録作も割と構造が似通っていて、淡々とした「自分語り」の導入部から始まって、最後に陰惨な真実が明かされるという展開。誰でも心あたりがあるような、社会生活の中で(とくに会社という組織で)否応なく直面させられる理不尽さをニューロティックな筆致で描写するところにこの作者の特色があるような気がする。けれども、とりあえず「非道いオチ」をつければいいってもんじゃないよなあ、という気が正直した。

 そんな中、英国幻想文学大賞受賞の「猫を描いた男」だけはトーンが他の作品とは異なっていて、S・キングの物語を村上春樹の語りで描いたような小説になっている。訳文は翻訳者のものなので、「村上春樹風な感じ」がどの程度原作に基づいているのかは分からないけれども、絵についての比喩などはとりわけそういう印象。収録作品中ではこれが一番良かった。

 これは全くの個人的感想なんですが、「訳者あとがき」では冗長なんて書かれていたけど、「見知らぬ旧知」の導入部にはものすごく共感しました。少数派?
☆☆☆