パッチギ(井筒和幸)

 ちょっと井筒監督をなめてた。フィルモグラフィ上の角川映画とか奥山映画での「えぇ?」って言いたくなる出来の悪い印象が強くってね・・・

 いろんなところで言及されてる様に、役者の魅力の引き出しかたが上手い。全てのキャラが立ってる!とくに女の子の撮り方。(個人的には映画監督に必要な資質って女優を「素敵に」撮る事だと思ってるから。キレイにってだけの話ではなくて。)ルックスの好みだけから言うと真木よう子の方が圧倒的に好きなんだけど、沢尻エリカの底力というかポテンシャルの高さっていうのは画面を圧倒してた。所謂「体当たり」って形容されるような激情系の演技は分かりやすい分評価の土俵に乗りやすいと思うんだけど、そうじゃない7割くらいのセーブされた演技でも観客に伝わるものがある、というのが本当に上手い役者なんじゃなかろうか。そういう意味で沢尻エリカは今後注目。

 一方主人公の塩谷瞬も透明感のある清々しい青年ぶりがよかった。(迂闊にもハリケンレッドだったって知らなかったのだけど、オダギリ・ジョーと新旧イケメン特撮俳優競演という趣旨があった訳ね。)オダギリは作品数を重ねて、鍛えられて上手くなってきてる印象があるけど、塩谷は素材のよさというか最初からの素質で勝負できるタイプのような気がする。なんとか特撮出身俳優バブルをサバイブしてほしいと思った。

 ところで作品自体は、ナイーブな主人公が価値観の異なる異文化に放り込まれて、という「地獄の黙示録」的な典型的構造。主人公は狂言まわしのポジションなので、だからあれだけ作りこまれてるにもかかわらず「思想的な先生」とか「ボケ役の友人」が後半切り捨てられてしまうのは仕方ない、のだけど、もったいなかったなあ。
 異文化である「在日」の世界を含む昭和40年代の光景は、実際の話や伝説化してること含め、やっぱり監督のファンタジーなんだと思った。そういうある種のファンタジーの上ではあるけれど、イデオロギー的な話をされるとやっぱり窮屈でね。青春映画という前提で色々な要素のひとつとしてフラットに提示されていればもう少し飲み込みやすいと思うんだけど、そういう意味では「月はどっちに出ている」の方がその種の窮屈さからは自由だったような気がする。

 ということはさておき、ヒロインの名もなき友人(クレジットもなし?)にむしろグッとくる人(id:throwSさん)が俺だけじゃないんだってのが嬉しかったです。
☆☆☆1/2