ブラザーズ・グリム(テリー・ギリアム)

 なんて普通なんだ!という驚き。「ドン・キホーテを殺した男」が空中分解した反動はかくも大きかったのかと。

 ジョナサン・プライスは「ブラジル」でこそ自由を夢見る青年という役柄だったけど、「バロン」からこちらすっかり体制側の人だなあとか、モニカ・ベルッチは殆ど「マト・リロ」と変わらない役なんだけど、考えてみたら注目されたきっかけは「ドラキュラ」の3人の花嫁役だからある意味芯はぶれてないのか、とか役者方面の感想はそれくらい。そうそう、主人公兄弟の弟役H・レジャーはフィルモグラフィからいってもさすが(本来の意味の)コスチューム・プレイがM・デイモンより板についていた。

 繰り返しになりますが、どこまでもウェルメイドなつくりなので、監督の熱心なファンじゃない人にはむしろ受けるかも。画づくりもいつもの様なちょっとパースが狂ってるような過剰さは控えめだし、普通に重厚で落ち着いたトーン。もっとハジけてもよかったのに、やっぱりリハビリ作品なのかなあ。 
 兄:「呪われた森への道案内がほしい」、長老:「それなら村の外れの猟師がええ」、村人達一斉に「やつは呪われとる!」「呪われとる!」つばペッペッ、というシーンの演出の呼吸だけが辛うじてモンティ・パイソン風。そこ以外は正直いってギリアムでなくても・・・みたいな肩透かし感はあった。

☆☆☆

まめちしき1:本当は兄がヤーコプ(ジェイコブ)で弟がヴィルヘルム(ウィル)。だから映画では逆?だった。
まめちしき2:グリム兄弟というと、「朴訥で良心的な民話採集者」みたいなイメージが漠然とあるような気がしますが、実際の所は(映画のバックグラウンドとしても若干触れられてたけど)ナポレオン戦争中〜後の国家再編に揺れるヨーロッパにおいて、あたかもドイツという国家が最初から存在したかのように、拠り所となるアイデンティティを後付で作り上げる、という政治的「手段」として「童話集」を編纂したのでした。
 ところがその元ネタたる童話提供者はユグノー(仏新教徒)で、というねじれの構造もあるらしく・・・この映画で興味がわいたら関係書で掘り下げるのも楽しいかもしれないですね。