スは宇宙のス(レイ・ブラッドベリ)

 僕の中でのブラッドベリは「たそがれの国」の住人。彼の作品に自分が何を求めているのかよく分かった。

 この短編集はオールド・スクールなテイストのSFで、ディックの初期作品と言われたら信じたかもしれないくらい「らしさ」がない。(ディックも初期の頃のものには色がついていないというのと同じ意味で。)そこが個人的には物足りなかった。

 収録作中一番「たそがれ」濃度が高いのは「透明少年」。孤独に生きてきた老婆と少年とのつかの間の触れ合いを、作者らしい筆致で繊細に描き出す。この作品はハリポタバブルによるアンソロジー「魔法使いになる14の方法」で既に読んでいて、そこでは「見えない少年」というタイトルで訳されていた。これは傑作の多かったアンソロジー中でも飛び抜けて素晴らしい作品だったのだけど、今回改めて読んでみると今ひとつその時の感動には及ばなかった。
 それでどうにも腑に落ちなくて、もう一度「見えない少年」の方を読み返してみた。結論としては、翻訳に極端な違いはないのだけれど、細かなニュアンスの違いの積み重ねで読後の印象は大きく変わるということ。当たり前か。ということは訳が自分に合わなかったのかな?

 ところでブラッドベリ節が一番冴え渡るのは、「孤独」について語るときではないだろうか。彼の作品の中で名作と呼ばれるものの多くは、それをテーマにしているような気がする。

☆☆☆