イノセンス(押井守)

 前作「攻殻機動隊」のときも同じ感想を持ったのだけど、「ブレード・ランナー」がもっとシンプルな方法で語っていたテーマを、難解というか衒学的なアプローチで語りなおしたにすぎない、ということ。ペダンティックな過剰さというのは「うる星」のメガネ的に笑いと結びついた時には効果的なんだけど、真顔で言われるとちょっと鬱陶しいし、恥ずかしい。犬狼シリーズの「赤い眼鏡」や「ケルベロス」ではそこら辺にまだ余裕があって楽しめたんだけどなあ。その窮屈さというのは、すべてセリフで埋め尽くそうというスタイルに原因があると思われる。翻ってみるに「ブレ・ラン」の美しさというのは行間を読ませる「余白の美」にあった訳で。だから今回は続編をわざわざ作ろうというのだから、別の方法論でもって成立させようという試みだと期待してた。それがなんと前回の2割り増しの引用や警句で押し込んできたから失望もより一層だった、ということ。

 テーマはそういうことで、もう一方の映像面。日本じゃないと作れないタイプの画づくりで面目躍如、ではある。しかしこれまたがっかりだったのは「北端」のイメージがこれまたまんま「ブレ・ラン」の冒頭のイメージで。加えてピュアCGとセルアニメ(まあ本当はセルを使ってないデジタルベースではあると思う。ここでは所謂ニ次元画の意)の齟齬が拭いがたくあった。監督のエクスキューズなのか「それは狙い通り」ってことを公開前に予めアナウンスしてた記憶がある。であるならば、次回はナチュラルな画作りもいけるところを見せてほしい。

 さて上記の不満項目をさておいても「いかがなものか」といわざるを得ないのは結末あたりで被害者の少女に対して放たれるバトーのセリフ。「お前は迷惑をかけた相手の気持ちを想像はしなかったのか?人間のことじゃねえ、人形に対してだ!(大意)」というのはあんまりである。監督の(球体関節)人形へのフェティッシュの吐露なのか、気持ちよくは終わらせないぞという天邪鬼さ加減なのか。ちょっと理解しがたいな。(ところで元々SFのクリシェで構成されている作品なので指摘するのも野暮なんだけど、20世紀SF第6集所収の「真夜中をダウンロード」と大枠同じプロットですね。)

 まあこうして色々不満点を挙げてしまうのも好きだから故ではあります。監督は同じシーンが執拗にリピートするような「出口なし」の悪夢的なシチュエーションを好んで扱ってるけれど、今回もそれは健在で、そこだけは素直に嬉しかった。

 ☆☆☆