殺しの接吻(ウィリアム・ゴールドマン)

 最近「ウィリアム・ゴールドマン祭り」を個人的に開催中。彼の作品は何かしら心にトラウマじみた刻印を残すことが多くて、それは必ずしも快いものではないのだけれど凡百の作品より読み応えがある。

 というわけで、ブレイクのきっかけとなった実質的なデビュー作。展開がはじけていて、まるで高熱でうなされながら夢と現の間で書かれたような不思議な迫力を帯びている。(実際かんづめになってわずかな日数で書き上げられたものらしい。)
 サイコ犯としがない刑事の一騎打ちにコピーキャットが絡んできて・・・という筋から分かるようにジャンルはミステリである。が、巧緻な構成を楽しむといったタイプの作品ではない。犯人、刑事それぞれの主観で物語が語られるが、感情移入を拒むような歪なキャラクター造形。共通点は母との不幸な関係。せっかく登場するヒロインの扱いもおざなりで(意図的に?)、主人公である刑事の空想上の人物かと最後まで疑ったほど。

 いくらでも引っ張れそうなプロットでありながら、最初期の作品らしい無駄をそぎ落としたソリッドさが素晴らしかった。

 ☆☆☆☆