闇に踊れ!(スタンリイ・エリン)

 エリンといえば「奇妙な味」の短編作家としてのイメージが強いが、これは正統派探偵ものの長編ミステリ。

 物語は、白人至上主義のサイコ犯罪者の独白で彼の「ある計画」が描かれるパートと、美術品盗難を扱う探偵事務所のエージェントのパートが交互に進行する。通常なら交わらないはずの両者の人生が、ある黒人美女に関わったことから最終地点に向かって走り出す・・・

 独白のパートは翻訳者が意識したのか、なんとなく「ロリータ」のハンバートの語りを思わせる。

 しかしそちらよりも断然面白いのは美術品盗難探偵のパート。虚々実々の美術品をめぐる駆け引きも読ませるし、なによりセレブリティの生態描写にこの作家は独特の冴えがある。(意中の人をステーキハウスに誘うのに、スマートかつ嫌味にならない店はどこか思案するシーンなど最高である。)

 結末から逆算して作られたと思しき緻密なストーリーテリングも併せて、久しぶりにミステリらしいミステリ小説を堪能した。

☆☆☆☆☆