茶の味(石井克人)

 タイトルから連想されるのは小津映画的「古きよき時代の日本映画」。実際、今までアッパーな作風で知られた監督の、しかも外国の市場も視野にいれた(カンヌ出品)作品でもあるので、スローなスタイルで日本の情緒的世界を撮るという方向性の変化には多少なりともマーケティング臭が漂う。そして意地の悪い観客の目からすると突きやすい、シフトチェンジを誤ったと思われる瑕疵もままある。

 けれども静かな映画を指向した作品としてはなかなか健闘していたと思う。

 漫画家のおじさん絡みのエピソードはもっと摘める要素があるし、意図したダレ場をつくっているにせよ2時間23分は長すぎた。しかし最後の夕焼けの場面ですべてが許せてしまう。誰でも心に残る「自分だけの夕焼けの景色」を持っているものだと思うが、それを思い起こさせるような切ない名場面だった。正に終わりよければすべてよし。

 役者陣は主人公の高校生ハジメを演じる佐藤貴弘がものすごく普通で素晴らしい。普通なのに気持ち悪くないっていうのは実はすごいことだと思う。(これから意外と格好よくなってテレビドラマに出てきたりして。浅野忠信だってこういう風になるとはデンデケの時点では全く分からなかったもんなあ。)

 三浦友和の中庸ぶりの素晴らしさは世間で言われて久しいのでこれ以上繰り返さないが、今回びっくりしたのは手塚理美のいい意味での枯れっぷり。恥ずかしながらエンドクレジットをみるまで誰なのか分からなかった。美人女優の方向転換は難しいので、この方面の引き出しを手に入れたのは得がたいことだと思う。

 そしてやっぱり土屋アンナのはすっぱなヒロイン。石井監督は女の子をかわいらしく撮るのが本当に上手い(「鮫肌」の小日向しえ然り)。ほかの映画や番組ではぜんぜんピンとこなかったんだけど、この映画では輝いている。登場場面はそんなに多くもないけど、主人公の男の子がひと目で恋に落ちる説得力を持ってた。

 輝いていたといえば、もう一人の主人公、6歳の妹を演じる坂野真弥も不機嫌な顔なのに出てきただけで場面をさらう。ちょっと高橋マリ子チックな顔立ちなんだけど、大きくなったらすごいかも。おまけでいうなら、冒頭、転校することでハジメに世界の終わりのような喪失感を与えた「憧れの同級生」を演じる相武紗季も相当な説得力があった。石井監督いいとこ目をつけるよな。

☆☆☆1/2