最後の一壜(スタンリイ・エリン)

 カテゴライズするならば「奇妙な味の短編」ということになるのだろうけれど、不思議と理不尽なオチ(例えると「笑ウせーるすまん」チックな)ではなくて、割とポジティブなベクトルに向いているため、ロアルド・ダールの諸作のようにイヤーな気分になることはない。ただ、一方で飲み込みやすい結末であるが故にインパクトに欠けるきらいもある。それが本国では並び称される作家であるにもかかわらず、ダールの方が日本ではメジャーである所以のような気がした。(読後感の違いについては、同じワイン狂テーマである「味」と「最後の一壜」を比較すると顕著ではないだろうか。)

 収録作では、映画業界の内幕もの「12番目の彫像」が業界に精通している作家ならではの描写で楽しめた。さらに映画「マラソンマン」風のエスピオナージュ(というか「マラソンマン」自体小説が原作なんだけど、こちらが執筆年は先)「贋金つくり」がひょうひょうとした語り口と冷徹非情の世界の対比で惹きこまれた。なんというか、ハイソサエティの風俗描写に独特の冴えをみせる作家である。そこが好き。

 なんとなく笑ってしまったのは「古風な女の死」の悪役ヒロインが「私って古風な女なの」と自称するところ。笑ったというのはちょうど執筆年と同じころのアニメ「トムとジェリー」でも色気だけが取り得のグラマーなネコが「私ってウブな女よ」とトムをメロメロにしていたのを思い出したので。原語でなんといっていたのか分からないけど、「古風な女」を自称するちょっと足りない女の子っていうのは、あちらでは定番のギャグなのかな?