綺譚集(津原泰水)

グロテスクの度合いを増した「夢十夜」といった印象。

津原作品に触れるのはこれが初めてなのだが、「夢十夜」を連想したように夢語り的な、物語としての整合性よりも雰囲気重視の作品を書く人なのだろうか。どの作品にも濃厚なエロスが漂っているのも「夢」という要素を感じさせる一因かもしれない。ただ残酷さの度合いからいうと、僕の中で「そういうもの」として割り切って楽しんで読めるボーダーを越えていた。今までの読書体験で一番似た感覚だったのは、バタイユの「眼球譚」。

そんな感じで、つまるところある種のファンタジーとして書かれているのだなあという感想を持ったのだが、収録作中で気に入ったのは一番現実に即した世界観を持っている「黄昏抜歯」。痛む奥歯とかみ合わない婚約者とのやりとり、という精神・肉体の双方にストレスを抱えたOLの日常を淡々としかし克明に描く、ちょっと中間小説風の味わいがある作品。と見せかけて結末ではある恐ろしい秘密が明らかになるのだが・・・それだけに残念なのは、そのトリックが体験的には不正確なこと。作品のトーンが違えば些細な瑕疵だったと思うのだが、読者に実感できる日常描写を積み重ねることでこそ効果を発揮するタイプのオチなので。ちょっとツメが甘いんじゃないかな。