どうして僕はこんなところに(ブルース・チャトウィン)

僕は機内誌を読むのが大好きである。正確には「翼の王国」を読むのが好きなのだけど(JALの方のやつは今ひとつ・・・)。気が利いた小話系のショートストーリーや、写真が主体の旅行記など、サービスのコーヒー片手に読んでいると「飛行機に乗ってる感」が盛り上げられて最高である。迷わず入り口で手にした新聞や雑誌を選択している人も多いようだが(というよりそちらが多数派のようだが)、あれは非常に飛行機の楽しみ方としては損をしている、と個人的にはいつも思う。仕事でしょっちゅう飛行機を利用してる人たちなのかな。
ところで、機内誌というのは文字通り「浮世離れ」した非日常の空間だから楽しめるのであって、実際に日常のなかで読むにはちょっと気取りすぎで恥ずかしいかもしれない。その点、過剰なセレブ性をウリにしている「ブルータス」なんかと親戚関係であるような気もする。

話が逸れているようだが、実は「ブルース・チャトウィン」の名を初めて知ったのは「翼の王国」であった。その名もずばり「どうして僕はこんなところに」という記事で、メモ魔だった彼の使っていたノートというか皮製の小型システム手帳を紹介していた記憶がある。旅に生き、旅の中に死んでいった、というロマン溢れる話で、その時はなんとなくヘミングウェイの同時代人のように思い込んでいた。

実際には89年に49才で亡くなっているので最近の人なのであるが、実際に著作を読んでみるとそのロマンティシズムや放浪ぶりが両大戦間期のヒーローたちと面影が重なる部分がある。そしてやっぱりなんか気取ってるなあ。この本のなかで著者自身が書いているように、文芸界でもそういう批判は割りとあったらしい。澁澤龍彦なんかとはベクトルは違うけれど、ペダンティックな印象は否めない。でもこういう「翼の王国」的な過剰さもたまにはいいなと思ったことだった。