帝王の殻(神林長平)

3部作が完結したとのことで、まずは2作目のこの作品から。

労働力であり兵器であった機械人(月人)との戦いで疲弊した地球から離れて独自の文明を築いた火星。そこでは個人用人工頭脳「PAB」が情報端末の域を超えて、第2のアイデンティティにまで成長していた。そしてPABの生産供給元である秋沙能研は、いつしか国家とイコールの存在となっていた。
能研4代目である恒巧は、無能な道楽息子と世間からは目されており、先代が会社の権利を息子である真人に譲ったことで名実共にお飾りにされてしまっていた。そんな崩壊の予感を孕みながらも退屈な日常が続いていたある日、2歳半に過ぎない真人が突然大人のような言葉をしゃべり始めた。いったい誰の仕業なのか?そして何の目的で・・・

神林作品はこれが初体験で、その独特のスタイルにまずおどろく。果てしなく続く自問自答のような物語。複数のキャラクターが一応登場するものの、誰かの妄想のような、脳内シミュレート的仮想人格同士のやりとりのように読めてならない。世界設定は異なるようだが、同じようなテーマを他の作品でも扱っているのだろうか?

という作品自体の独特さもさることながら、今回の読書で楽しかったのは90年の出版(初版ハードカバー)であるにもかかわらず、本自体がなんとなく古めかしいつくりであること。フォントといい、カバーイラストといい。思い出したのは小学校の図書館でよんだ福島正美のSF。ちょっと大人な感じの内容に触れてドキドキしたあの読書体験が甦るようであった。

ところで壮大な世界設定のはずなのに、つきまとう箱庭感覚。加えて登場人物がみな日本人みたいなのはなんでだろうか。火星は日本人だけしか住んでないの?(まあエセ外人に登場されても萎えるけど。)なんか怪獣映画でさんざん世界の危機なんていいながら、結局東京しか襲ってこないみたいな不自然さを感じました。