奇術師(クリストファー・プリースト)

 いろいろなところで話題になっていたので読んでみました。ややネタバレかもしれないので、未読の方は以下読まないでください。

 まるで策略のように、ある貴族の地所へ呼び出された若い新聞記者。呼び出した主である同年代の女主人は、「我々は、先祖によって始められた諍いに今も縛られているのです」と告げる。それはあるトリックにまつわる、一生を通じての確執の物語だった・・・

 この小説に関してよく目にしたトピックは、「語り=騙り」的な、そのまま提示しただけでは陳腐でしかない「ジャンル小説」を(現代文学の世界において洗練されてきた)語りの技術によって再生した、というもの。そのため騙されるまい、あるいは見破ってやろう、と娯楽のための読書としては肩に力が入りすぎた斜に構えたものになってしまったようで。先入観にとらわれるのはよくないですね。

 さて感想ですが、個人的にはそういった語りの技術的な部分よりも、ジャンルを横断する「物語」の部分に感心しました。ある特定のジャンルの小説を読んでいるつもりで夢中になっていて、気がつくと全く別の世界に連れていかれてたような。まさにその手つきこそがミスリードを本分とする「記述=奇術」ということなんでしょうね。
☆☆☆1/2