裏庭(梨木香歩)

児童文学ファンタジー大賞受賞作。
ファンタジー作品の世界設定には、大雑把にいって、完全に空想の世界内で完結しているものと現実世界に異世界の要素が紛れ込むタイプがある。この作品は後者で、より具体的にいえば、エンデの「果てしない物語」やキング+ストラウブの「タリスマン」的な構成となっている。そしてボリュームこそコンパクトであるが、それらの名作に劣らず素晴らしかった。

過去に英国人一家の別荘だった洋館。その庭は近所の子供たちにとってずっと昔から絶好の遊び場であった。しかしそこには表に見える庭以外にも異界である「裏庭」が存在していた。選ばれた存在だけが立ち入ることを許されるというその世界に、ある出来事をきっかけとして、照美は入り込む。まるで何かに導かれるように・・・

登場人物、世界設定、物語が対の構造を成していて、それらの複雑で重層的な要素をコンパクトにまとめている手際が見事(ややメタファーがうるさいきらいはあるものの)。また一見洋風ファンタジーの異世界である「裏庭」を構成する要素やエピソードが、日本の民話から採られているところが目新しかった。こどもの頃に児童向け民話集みたいな本を読んだことがある人は、思わずニヤリとするのではないだろうか。

大人が思うより子供は大人であるし、子供が思うよりも大人は子供時代を引きずっている。でも、まあそういうものだからあんまり無理しなくていいよ。というメッセージが、通常このジャンルの基礎をなしているビルドゥングス・ロマンの構造を相対化していて深みがあった。