読書

世界の終わりの七日間(ベン・H・ウィンタース)

1作目から随分遠いところまで連れてこられたな、という感慨が。フーダニット、ワイダニットの趣向もあるにはあるけど、終末ものSFとしてやり切った感じがよかったですね。 ところで、一人称ハードボイルドという形式のため、(読者がある程度同一化せざるを…

はてしない物語(ミヒャエル・エンデ)

初めて読んだ時の感動を大切にしたくて、あえて再読をしていなかったのですが、改めて読み返しても素晴らしかったです。 端的にいえば想像することの大切さを描いていると思うのだけど、抽象的な事柄を扱うことがないがしろにされがちな昨今だからこそ、小・…

カウントダウン・シティ(ベン・H・ウィンタース)

3部作なので前作からのブリッジという位置づけになるのでしょうか。ちょっとがっかりした、という感想も目にしていたのでどうだろうと心配していましたが、悪くなかったですね。 小惑星が衝突して世界が滅ぶとされている設定だから、というのももちろんある…

いずれは死ぬ身(柴田元幸 編訳)

ニューヨーカーに掲載されるような小説で、かつ玄人好みの作品群かなと思いました。タイトルどおり諦念が通奏低音のような選集ですね。もともと好きなトム・ジョーンズ(舞城訳よりこちらが好み)やオースターがよかった。村上春樹の文体に引っ張られている…

殺しの接吻(ウィリアム・ゴールドマン)

最初に読んだのは翻訳が出た頃だから随分前なのですが、その時の印象以上にすごく面白かったです。そういえば1回目は穿った読み方をしすぎて、序盤、犯人は主人公の別人格なんだと思いながら読んでいました。 改めて読み返すと、ゴールドマン節というかクセ…

黒き荒野の果て(S・A・コスビー)

定番の物語を手堅く読ませるな、と思いました。最後の仕事と思い定めたヤマが泥沼に、という100回くらい読んだ話なんだけど、枠組の力強さで引き込まれる。(人物がよく描けているということかもしれない。)カーチェイスをはじめとしたアクション描画も的確…

とうもろこし倉の幽霊(R・A・ラファティ)

ラファティの方法論は何となく分かっちゃったからな…となめてたら久しぶりにぶっ飛んだ。 「さあ、恐れなく炎の中へ~」はエリスン的な終末観がすごいし、「チョスキー・ボトム」は奇想と伏線回収のウェルメイドが同居しているのが巧み(ある意味、作者はな…

ナイト・エージェント(マシュー・クワーク)

あまり話題になっていた印象がないけれどとても面白かった。体制側の仕組んだ陰謀で誰を信用してよいか分からないし、誰にも助けを求められない、というのはベタな設定ではあるけれど手堅い物語運びで緊張感があった。それ以上に現状のロシアを巡る政治情勢…

息吹(テッド・チャン)

SFは、現状発明または発見されていない事物・事象そのものの面白さに軸足を置いたものと、それが社会に与えるインパクト、変容を中心に描くものがあると思うけれど、テッド・チャンは明らかに後者ですよね。私は両者のバランスがとれたもの(といっても結局…

台北プライベートアイ(紀 蔚然)

ミステリ版『吾輩は猫である』という感じでした。高等遊民の低徊趣味の風情。これは翻訳の方の仕事が素晴らしかったと思います。 『吾輩~』が(どこにでも行けるカメラとして)猫の目に仮託して世相を風刺していたように、調査の名目でどこでも入っていくと…

荒野のホームズ(スティーブ・ホッケンスミス)

ホームズの面白さって「科学的」を建前にしたケレンとか黎明期の(広義の)冒険小説のワクワクが肝だと思うので、なんか違うんだよな…という違和感が先に立って楽しめなかった。そういうことを抜きに独立した「西部が舞台のミステリ」だったら素直に面白かっ…

アメリカン・ゴッズ(ニール・ゲイマン)

テレビシリーズがシーズン2で失速して観るのをやめたのだけど、結末が気になるので原作を手に取った次第です。文章は簡潔なのにやたら衒学的なので読むのにとても時間がかかったな… 今更気づいたけど、つまるところ「女神転生USA」だったんですね。それとダ…

摩天楼の身代金(リチャード・ジェサップ)

一部ですごく高評価と聞いて読んだのですが、あらすじ紹介からは、おもしろコンゲーム、もしくはケイパーものを予想してたら、ウィリアム・ゴールドマンとかトレヴェニアンみたいな殺伐が顔を出すのが独特の味わい。もしかしたら80年代の時代性かも。(物…

続・用心棒(デイヴィッド・ゴードン)

いろんな要素をそつなくまとめてる感じだったけど、そつがないだけというか。これはこの作品に限らず、最近のエンターテインメント小説にはよく感じる。自分がこういったジャンルに慣れてしまったせいか?とも思うのだけど、『深夜プラス1』とか『北壁の死…

用心棒(デイヴィッド・ゴードン)

ちょっと物語にとって都合よすぎる展開が多いのと、用心棒稼業がほとんど描かれないので看板に偽りありではないか。というか杉江松恋氏の解説の方が面白かった。 時代の波にさらされて細部が気にかかり、過去のようにはエンターテインメントが楽しめなくなる…

拾った女(チャールズ・ウィルフォード)

正調ノワールかと思ったら意外と定石を脱臼する展開が多くて、主人公の転落をなすすべもなく見守るしかないという「破滅もの」という印象でした(語りに仕掛けのある主流文学でしょうか)。正直苦手な分野だったのですが(読み進むのが辛い)、そういうこと…

虹色と幸運(柴崎友香)

日常系、語りに仕掛けがあるギミック系、毒のある話、若干超常系と著者の作品はいくつか分野があるけれど、『フルタイムライフ』みたいな日常系でしたね。 ふとしたきっかけでとても親しくなって、ある時期を境に疎遠になったり、また久しぶりに集まるように…

いろいろのはなし(グレゴリー・オステル)

閉園後の遊園地、メリーゴーランドの馬たちを寝かしつけるのに園長はお話をします。しかし馬たちはなかなか物語に満足せずに、登場人物のその後を知りたがります。求められるままに園長はお話を語り続けるのですが… 「つまるところ物語とは登場人物のエピソ…

掃除婦のための手引き書(ルシア・ベルリン)

リディア・デイヴィスが「声」という形で表現面で高く評価しているから、原語で読んでこその作品なのかな、とも思ったのだけど。 私小説的な側面がある作品なので、それでいうとブコウスキーみたいにぶっ飛んだ感じまでいかないと引かれないというか。同じ翻…

三秒間の死角(アンデシュ・ルースルンド、ベリエ・ヘルストレム)

最初から超法規的措置で警察がバックアップすれば済む話(「その件は例のやつなので、スルーで」みたいに。それぐらいの覚悟決めてるんじゃないの?そもそも社会全体の利益を鑑みて、公共に資すると考えてるからこそ実行してるんでしょ?)と思うので、抜き…

‘THE SCRAP’ 懐かしの一九八〇年代(村上春樹)

もうゼロ年代リバイバルしようかというご時世だけど、これは80年代にリアルタイムでアメリカの雑誌を読んで雑感を書く、という村上春樹のコラムをまとめたものです。こんな本が出ていたって知らなかった。 今の眼で見ると、ううむどうかしら…という内容も…

夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII(スティーブン・キング)

よく見るようなありふれた光景から、予期せぬ異常な世界へ滑り落ちていく…というのがキングの真骨頂だと思うのだけど、いわゆる「普通小説」が多かったことを割り引くとしても、初期作品みたいな荒々しく禍々しいパワフルさには欠けるような気がしました。 …

停電の夜に(ジュンパ・ラヒリ)

最初にクレスト・ブックスで刊行されて以来だから随分久しぶりに再読。当時も思ったけど、いかにもニューヨーカーが採用しそうな短編だなと改めて(クレスト・ブックスはこういう所を狙っている叢書です、というよいショーケースにもなっていた記憶がありま…

その女アレックス(ピエール・ルメートル)

ヴェルーヴェンのチームのでこぼこぶりがペナックの登場人物みたいだな、と思って読んでいたら話が『グルーム』みたいに重くて陰惨な感じになってきて…と思ったら訳者あとがきに正に引用されていたから、みんなやっぱり考えることは同じなんだなと思いました…

魔女と暮らせば(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

著者の作品はいくつか読んでいるのですが、登場人物が皆弱点を抱えていて(たとえ強大な大魔法使いであっても)、そこが切ない。逆に、悪い人間もただ邪悪なだけじゃないと感じられるというか。人間の卑小な側面にふとした瞬間に子どもながらに気づく描写な…

オータム・タイガー(ボブ・ラングレー)

凡庸な印象と敵を作らないことでCIAの部長となったタリーは、退官直前に東ドイツの大物の亡命の身元引受けに指名され当惑する。事務官一筋の自分に何故? 時はさかのぼり第二次世界大戦末期、ドイツの情報部将校が極秘作戦のためアメリカの捕虜収容所に潜入…

日曜の午後はミステリ作家とお茶を(ロバート・ロプレスティ)

ミステリとしてのひねりはそこそこなんだけど、シャンクス氏の気が利いたやり取りが面白くて、ささくれだった気持ちの日常にはちょうど心地よい短編集でした。むしろシャンクス夫妻の日常を描き出すきっかけとして謎かけがあるような、ちょっと主客が転倒し…

騎士団長殺し(村上春樹)

『多崎つくる』は普遍的な青春というか、あまり村上作品にないアプローチを感じて好きだったんだけど、この作品はあまりに村上作品要素だらけ(というか、のみ)すぎて、ううむ、となってしまった。 そういえば『1Q84』は掃除人や便利屋みたいな闇を徘徊…

三の隣は五号室(長嶋有)

作者の近作では毎回同じ感想を書いている気がするけど、今回も手癖で書いている印象が残った。というか、作品を立ち上げる拠り所(これまでだとSNSだったり運転することだったり)として、今回は「アパートの住人の変遷とその時代背景」という枠組みを選…

拳銃使いの娘(ジョーダン・ハーパー)

最近の傾向なのか、小説としては面白すぎるし格好良すぎる。つまりテレビドラマの脚本や梗概ならいいのだけど、小説という媒体としてはユーザーフレンドリーすぎるんじゃないかな。熊が代弁する描写や、登場人物描写(というより設定の説明みたい)に特にそ…