アメリカン・フィクション(コード・ジェファーソン)

 実際に見てみたら、黒人だってアレクサンダー・ペインっぽい映画作れるんだぞ、という話だったような気がします。勢いで適当な「白人受けする生の声」風小説を書いたらまさかの大当たり、というのは要素のひとつにすぎないというか。しかしながら、正直世評ほど感心はしませんでした。

 ところで、字幕で気になったのは主人公は長兄じゃないの?ということ。問題を抱えている兄弟は弟じゃないのかな…

☆☆☆

フォールアウト(ジョナサン・ノーラン他)

 ジョナサン・ノーランは『レミニセンス』しかり、終末世界にオブセッションがあるのかな、という印象ですね。でも、それらしき世界を構築するセンスは確かにあるなと感心しました。

 キャラクターとしては陰影のあるキャラとして、やっぱりクーパー(グール)が魅力的で、視点人物としての設定が絶妙だったと思います。原作ゲームファン(あるいは『ウエストワールド』などのファン)以外にも人気が出たのも納得でした。ウォルトン・ゴギンズは、少なくとも映画では感じが悪い殺され役での印象が強かったから、こういう幅のある役もできるんだなと新たな発見でした。(特殊メイクのせいか、ちょっとジム・キャリーっぽい瞬間もあるな。)

 あとアーロン・モートンが好印象だったので、征服者カーンの後任は彼でいいのではと思いました。(といいながらMCUへの関心はかなり薄くなってしまっているのですが…)

 それはさておき、ということなんだけど、サブスクのドラマってどうしても露悪的なショッキング展開と風刺劇で目を引くしかないのかな(そうじゃない方法論はないのかな?)、という気はしました。そういう観点で見てもよくできてはいるけど、視聴者を刺激する方向で引っ張っていったらエスカレートするしかないから。(ということを「ザ・ボーイズ」などでも毎回書いている気がします。)

☆☆☆1/2

ラブラバ(エルモア・レナード)

 (ネタバレ感想です。)先日読んだ『オンブレ』が最高だったので別のレナード作品ということで手に取ってみたのですが、とても面白かった。ただ、一筋縄ではいかない登場人物たちの思惑が絡んで、物語は予期せぬ方向へ…という妙味はあるものの、話が複雑になった分『オンブレ』のようなシンプルな力強さには欠けるかな。しかし本来レナード的とされるのは今作のような感じなんだと思います。

 レナード作品を評する時に、「極悪なんだけど、憎めない悪役」という言い方がよくされるような気がするのですが、個人的には「欲望に忠実すぎて後先の考えてなさが呼び起こす事態がおぞましくて、小説なのに本当にいそうなところが怖い感じ」だと思うんですよね。実際、本作の主人公のラブラバは、他の登場人物が悪役を「憎めない」と評するのを「正気か?」って思うのだけど。

 物語そのものについて言えば、現在の視点で読むとつい60~70年代の渋いクライム・ムービーの映像で想像してしまうけど、実際は書かれた83年が舞台で、要は景気が良さそうにみえるけどよく見ると張りぼてであって、文化トレンドとしてはポストモダンが叫ばれていた時代なんですよね。だから、想像するなら「マイアミ・バイス」のペラペラ原色な感じに、過去の遺物であるモノクロ時代のヒロイン、ジーンが時代に馴染めずに(現状を受け入れられずに)浮いている、ということをイメージしないといけないのだと思います。(端的に言えば、この作品の構えそのものがポストモダンということなんだけど。明らかにそれを踏まえて書かれていますよね。)

 というわけで、主人公が最後に浮かべる「疲れた笑み」は、いたずらにかつての自分のスターに接近せずに、憧れは憧れのままとして銀幕の向こうに留めておくべきだった、という思いの表れだったのでしょう。

 ところで、レナードはこの後『ゲット・ショーティ』や『ビー・クール』などで映画製作そのものをモチーフにした(映画化もされた)作品を書きますが、やっぱり映画に対して並々ならぬ思い入れがあるんだろうなと思いました。

☆☆☆1/2

※そういえばラブラバは完全に最近のブラッド・ピット(『ブレット・トレイン』とか『ザ・ロストシティ』などの色々ありすぎた後の力の抜けた感じ)のイメージで読んでいました。

タランティーノの作品内の無駄話は明らかにレナードの作法を踏襲しようとしていると思うのだけど、露悪的で陰惨すぎるのであまり雰囲気においては成功していないように思います。映画で言えばむしろ『ビッグ・バウンス』みたいな作品の方が些事にこだわらないおおらかさの再現では成功しているような。

 

カード・カウンター(ポール・シュレイダー)

 端的にいえばポール・シュレイダーのいつものやつ(罪と贖罪)、なんだけどやっぱり良かったですね。何も起こっていない場面でも「映画が持っている」感じがするのって豊かな印象を受ける。蓮實重彦のいう「ショット」というのがそれなのかなという気もしているのですが…それと折々に挟まれる無人の屋内空間のショットが建築系アート写真のようでクールでした。

 オスカー・アイザックの演技が凄まじかったですね。上手すぎる。積み重ねてきた役柄の幅が広いから『デューン』などで領主役を演じても説得力があるのだろうな、と思いました。それはさておき、いつの間にかタイ・シェリダンはこんな感じになってたか…

☆☆☆1/2

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース(ホアキン・ドス・サントス他)

 今回はアマゾンプライムだったので、落ち着いて見ることができました。リアルタイムでは、ただでさえ情報過多な画面が映画館の大スクリーンだから消化しきれないところがあったけど、テレビだと全体が把握できて意外と悪くありませんでした。

 公開当時も思っていたのですが、手数の多い画面構成がすごい(というか凄まじい)のはもちろんだけど、人物の演技の演出が素晴らしかったですね。(特にマイルスと母のやり取り。)アニメは物語の展開から観客が意図を酌んで絵的な演技を補完しているところがありますが、この作品では表情や動きが役者そのものといっていいレベルに達していたと思います。

 あとはさすがフィル・ロードとクリス・ミラーのコンビというべきか、セリフの応酬の小ネタがすごかったですね。気が利いてる。これは吹き替えと字幕を同時に見ることができるプライムの大きな利点だったと思います。

 ただやっぱり2時間20分は長いと思うなあ。

☆☆☆1/2

イメージズ(ロバート・アルトマン)

 これまでこの作品の存在を知らなかったのだけど、精神的に問題を抱えている人の主観で描くということで、(手法としては実はあまり感心はしなかったのだけど)『ファーザー』の元ネタはこれだったんだな(まんまだな)と思いました。

 しかし70年代の映画って、観客にどう感じろと?っていうような作品が時々あるけど、それでも作られちゃうところに懐の深さを感じるような感じないような…

☆☆

 

シェイプ・オブ・ウォーター(ギレルモ・デル・トロ)

 実はデル・トロ監督の箱庭的窮屈な世界観がどちらかというと苦手なんだけど、この物語には合っていたと思います。半魚人愛、クラシック映画愛があふれていましたね。個人的には結末は『パンズ・ラビリンス』と同じだと思っていて、想像の世界の自由は誰にも邪魔することはできない、という意味なんだと思います。(普通にハッピーエンドということでもよいのだけど。)

☆☆☆1/2

※野暮は承知で書くけれど、水路が喫水に達するのを待たずにあれだけ近いんだから直接海に放てよとやっぱり思いましたよね。そういうディテールの甘さは物語の切実さにとって結構致命的だと思うのだけれど…